interview#005 勝山里美


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勝山里美

大阪生まれ/1983年横浜国立大学卒業/同年大林組入社/設計業務を経て、1995年に大林組の文化施設TN プローブ立ち上げ    現在、CSR室副部長

 

「ものづくりより、プロデュース」

 

 

勝山さんは大林組で設計部からTNプローブを経て広報という経歴をお持ちですが、ゼネコンに興味を持ったのはなぜだったのでしょうか?

 

自分はアトリエでやれるとは思っていませんでした。大学でも論文が書きたくて、環境工学の研究室に所属していました。でも設計はやりたくて、いろいろ思案した結果ゼネコンが残ったという選択ですね。入社して設計部で10年ほど仕事をした頃、TNプローブ立ち上げスタッフの社内公募がありました。これに受かったらもう一生設計は出来ないと思いましたが、強い魅力を感じ、応募しました。

 

 

勝山さんをそこまでかき立てたものは何だったのでしょうか?

 

設計に携わる中で、設計者には2種類あるなと思っていました。ディテールに至るまで細かく突き詰めて、ものづくりのように仕事をする人と、プロデュース的に動いていく人。私は後者だったんですね。ある時プロデュースの方が得意な自分に気がついたんです。その時に、デザインじゃなくプロデュースの仕事をした方がいいんじゃないかなと思っていたらTNプローブの話がやって来てこちらを選びました。

 

 

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–TNプローブの代表をされていましたが、どういうものだったんですか?

 

TNプローブは大林組が「自分たちから建築を発信する場」として運営していたギャラリーです。1995年に始まって、最初は100坪くらいのところでした。建築はデザインだけでは語れないですよね。まちそのものや建築の周辺領域も扱いたいと思っていました。建築が小さな世界の中に閉じこもっているように感じていて、一般の人にも「建築って身近なものだし面白いぜ!」ということを伝えたいという気持ちでしたね。

当時はまだ、例えばレム・コールハースのような海外の建築家が日本ではあまり知られていなくて、そういう人たちも紹介したいとも思っていました。

 

–TNプローブはギャラリーを飛び出してインスタレーションをしたりもしていましたが、どのような方針で企画を作られていたのですか?

 

TNプローブを立ち上げる際にいろいろなギャラリーや展覧会を見て回りましたが、模型や図面が並ぶだけの展示は、確かにきれいなんだけど、建築家が何を考えて作っているのかは実は良く分からないものが多かったんです。私が興味があったのは、出来上がった形や模型じゃなくて、なんでここがこうなっているのか、なんのためにこうなっているのか、ということでした。そこを追求したくて、展覧会だけではなく出版やシンポジウムも積極的に行っていました。その結果として、ああいうかたちのギャラリーなったんですけど()

展覧会やるのは面白いですよ。たとえばレム・コールハースの展示の最終チェックのときの話ですが、指示図面通りに作品を設置しておくわけですよ。で、レムは入ってきた途端、これあっち、これそっちとか言いながら、少しずつなんだけど移動の指示を出すわけですよ。で、みんなで模型を移動したりするんだけど、そうすると急に空間が動き出すんですよ。今まで「とりあえず置いた」ってところから空間に躍動感が出て来て、建築家のすごさを目の当たりに見ることができた瞬間でしたね。

都市に肉薄するような展覧会ってなかなかないんだけど、いつかやれるといいなぁと今でも思っています。それに、建築そのものだけじゃなくていろんなエッジの部分。そういうのって面白いじゃないですか、関わっているぎりぎりのところって。その辺が出来ればいいなって思っていました。建築って奥深いんだから、形のことだけ語っててもつまんないでしょ、というのが根本にはありましたね。

 

 

–TNプローブを始めた1995年から15年間が経ちましたが、建築や都市に対する社会の認識は変わったと感じますか?

 

デザインに興味をもつ人は多くなったと思います。ただ、まだ都市までは興味はいってないかな、と思いますね。例えばどこかにある建築があったとしても、駅からそこまで行く道のりやまわりの風景っていうのは都市の話ですよね。都市と建築っていうのは繋がっているし、都市だって十分身近にあるものだと思います。そういう身近なわかりやすさから問題を共有することは出来ると思う。今もしTNプローブがあったら、一緒に見に行ってくれる友達は昔より多いかもしれない。その時に、簡単に理解できる内容の部分もあってもいいですよね。TNプローブでは理論にこだわっていたし、ハードな
印象だったかもしれないけれど、いまは「わかりやすい」ってことも結構重要だな、と思っています。

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「建設そのものをみんなに理解してもらう」

 

 

現在携わられている広報のお仕事について教えて下さい。

 

業務範囲は幅広いのですが、例えば「季刊大林」という大林組の広報誌をつくっています。ただこれも、いわゆる会社の実績を見せる広報誌ではなくて、一つのテーマをいろんな側面から切ってみようと試行錯誤しています。建設というのは、政治とかその時の社会状況とか人とかにすごく密接に関係しているから、建物そのものだけ捉えのではなく、さまざまな側面から見ると、更に深く知ることができますね。社会学的に見たらどうなの?といった側面でいろんな方の論文を載せたりしていて、違う側面から探っていくということをやっています。毎号特集を組んでいるのですが「アーカイヴズ」「バイオミミクリー」など、一見建築とは関係のなさそうな内容になることも多いです(笑)。

 

 

–TNプローブや広報でのお仕事は、ゼネコンの業務としてつくられている物どのように影響するのでしょうか?

 

文化活動に関しては、実業と直接的な関係は難しいかもしれません。ただ、自分たちしかやれないこともあるという思いはもっていましたね。ゼネコンは請負業だから自分たちがいいと思ったものを建てられる訳ではないけれど、社会全体の意識が高くなれば、いいものをどんどん建てられる。回り回って自分たちがいい仕事が出来ることにはつながっていくんです。季刊大林もそうですが根本的な思いとしては、建設そのものっていうのをみんなに理解してもらいたい。建設のなかにはまちづくりもあれば建築もあれば土木もあるし、建設は社会との関わり無しには成り立ちません。なので、遠回りではあるのですが、どこかでは必ずつながっていると私は思います。

スーパーゼネコンと言ってもスカイツリーみたいな特殊な建物ばかりを作っているわけではなく、ごくごく一般的な建物も手掛けています。

でもやっぱり、ある程度大きな会社になるとそれなりに果たすべき使命があると思っていて、人々に、建設という仕事を理解してもらうとか、業界の質を高めるとかそういうことも担わされているような気がするんですね。

そういうことをやっていくことが会社の力になっていくと私は信じています。

 

 

インタビュー構成:山内祥吾(M2),平林瞳(M1),井上湖奈美(M1),田中建蔵(B4)

 


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