Interview#009 田辺潔


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田辺 潔

1961年埼玉生まれ/985年横浜国立大学卒業/同年大林組入社/施工計画・施工技術が専門。現場と本社技術部門を往ったり来たりして、自らの計画を現場で実践している/現在 新タワー建設工事事務所副所長

 

 



「プロとして誰にも負けないようになる」

 

大学時代はどのような研究をされていたのでしょうか。また大林組に就職するまでの経緯を教えてください

大学の研究室は建築計画の第2講座に所属していました。当時は野村東太先生がいらっしゃいました。

建築の学生で、入学当初からゼネコンに入ろうと思っている人は少ないと思いますが、私も卒業する頃になって将来を考え始めました。当時は大学院に行く学生は少なくて、建設業も第二次オイルショックの後で冬の時代でした。就職はゼネコンか設計事務所か、という感じで私はゼネコンを選びました。漠然とではありましたが、大きな組織で大きなプロジェクトを動かしていくことに可能性や魅力を感じていたんだと思います。

 

入社してからはどのような仕事をされていましたか?

就職してから25年経ちますが若い頃は現場に出て職人と一緒にコンクリートを打ったり、鉄筋を組んでみたりしながら6年程かけて現場でものの作り方や品質管理、マネジメントの基本などを学びました。その後本社勤務になり、入札の際に必要となる大きな施工計画を担当する部署に配属されました。現場がひとつひとつものを積み上げていく場所であったのに対して、そこでは現場全体を計画するという俯瞰したものの見方が必要とされます。施工計画の他にも生産に関わる技術開発やその技術を現場にきちんと伝えるという仕事もしていましたね。4年間くらい経験を積むと自分である程度大きなプロジェクトを計画できるようになり、それを現場に行って実践するといった感じで、内勤の技術部と現場とを行ったり来たりする様になりました。25年のうち10年は内勤で15年が現場という感じです。

今の立場になってからは、現場全体をどう運営するかやクライアントとの金銭面での折衝など、マネジメントが主な仕事です。現場一筋という人もいますが、ゼネコンの中での成長過程というのはだいたいこのような流れだと思います。私の場合はラッキーというか、大きなプロジェクトを最初から最後まで関わる機会に恵まれました。プロジェクトの入札から完成まで関わるというのは非常に面白いですね。

 

ゼネコンという組織の中でどの様に自分の立場を確立していったのでしょうか

ゼネコンというのは幅が広くて、設計部門の他にも技術研究を専門にする研究所や開発部門などがあります。その中でまた生産や営業などに分かれていて、人材は適材適所で配属されています。

入社したての若い頃は与えられた仕事を一生懸命やっていましたが、ある時期からは広い分野の中でも、ある部分においてはプロとして誰にも負けないようになりたい、「あいつに任せておけば間違いない。」と言われる様に道を極めたいと思い始めました。なので大学では学べなかった土質や地盤のこと、鉄の材質や溶接、ディテールなどについて猛勉強しました。そういった姿勢は意外と人に見られているもので、自分のアピールできるポイントを強化していく事で段々と「このプロジェクトはあいつに任せよう。」と言ってもらえる様になっていました。そういう事は我々の世界に限った事では無いですよね。大勢人がいる中で皆と同じ事をしていても頭ひとつ飛び出す事は出来ないですから。


 

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「どうやって建てるか」を考える

 

–建築を作っていく上での外せないポイントは何だと思いますか?

いろいろあると思いますが、私は構造を理解することが大切だと思っています。建物に働く力をどうやって地盤に流していくかが一番大切で、図面を見るときはどういう構造になっているかに注意します。そして、それを「どうやって建てるか」を考えなければならない。当り前と言えばそうなんですが、「設計図」は基本的に完成した状態を前提として作成されています。つまり施工中のことはあまり考慮されていない。最近の高層建築は、出来上がって最後に制震装置が頭の部分に乗って地震の揺れに対して保つ構造になっている場合があります。また、例えば華奢な部材を使って最終的に吊られている様な構造になっているものは、施工中に自重に耐えきれなくなってどんどん変形していったりするものもあります。設計では最終型の構造が解けていても、施工中の構造が解けているかは別問題で、そういった問題は施工の問題として、我々が検討しなければなりません。施工中に壊れてしまってはまずいわけです。宇宙空間で建築をつくってポンと地上に置くわけにはいかないので。

最近の建築は、スーパーコンピュータによる解析技術の進化などとともに施工時と竣工後の構造的な差異がどんどん大きくなってきて施工者としては悩ましいですが、一方で、東京スカイツリーなどのように鋼管の仕口があまりにも複雑なので3DCADなどの最新技術が無ければ絶対に出来ないと言った側面もあります。

 

 –東京スカイツリー®はとても特殊な建物ですが、これまでの経験がどのように役立てられているのでしょうか。

また、前例のない建物を実際につくるということに関して重要なことは何ですか?

建設プロジェクトにおいては様々な役割分担がありますが、実際のものづくりの部分に関しては我々ゼネコンの担当です。施工上で起こり得る問題についてはすべて我々が解決しなければなりません。誰もやったことの無いものをつくるというのは経験も大切ですが、それだけではだめで、見えていない問題に対して準備することが重要です。どういう問題が生じるかをあらかじめ想定する視点を持つことはかなり意識しています。

東京スカイツリーに関して言えば、GL部分で一辺約70mの正三角形から頂上に上がるにつれて円形になっていく形状をしているので、鉄骨の部材や仕口の形が全て違います。ですから3DCADを使わないと部材が作れないんです。組み上げる際にも三次元測量で全ての部材の座標を把握し組み上げていきます。

3DCADから現場施工まで一気通貫で管理をしているわけです。鋼管の組み上げや施工中の変形といった施工のステップごとの構造確認や補正は我々が独自にやらなきゃいけないんですよね。施工と一口に言ってもその中にはものすごい技術力がありますし設計的な検討も必要になります。でも、やっぱりいろいろな技術や知識を駆使して問題を解いていくというのは面白いですね。

 
 
 
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「マネジメントとは問題を解決しながらプロジェクトを推し進めていく役割」

 

–プロジェクトを進める上で生じた問題とその解決方法はどのように行っているのでしょうか

300m以上の建物をつくるという前例が無いので問題はたくさんあります。前例がないということは情報が何も無いということです、例えば地上の風と上空の風は全く違います。地上で風速5mの時に上空600mでどれくらいの風が吹いているのかということはデータとしてありませんでした。上空200mでの風は分かっているからその延長線上の風が吹いていると考えていいのか、あるいは全く別の状態なのか、というところから考えなければなりません。私たちは実際にそこで作業するので、どのような対策をすべきなのかを把握する必要がありますよね。ですから、問題に対して、仮定と検証によって解決策を導き出すという基本的な問題解決の手順をしっかりと踏まないとだめなんです。論理的に問題解決していくということです。

雷も同じで、600mともなればいつか必ず落ちるだろうと言われているので、雷がどのように落ちるのかを知る必要があります。実は雷は空から来るのではなくて建物の方から電気を発して発生する事もあるんだそうです。そういうことすら知らない訳ですからそこから勉強しなければなりません。それで、大学の先生にお願いしてレクチャーしてもらったりしました。

また、技術的な問題だけでなく、全体のマネジメントもとても大切です。マネジメントというのは誰も経験したことがないことをどのように実現させるか、そのためには何が必要か、などを考えます。このような建物になると設計の段階から施工方法も考えていかなければ実現できません。そのための交渉なども重要になりますね。展望室に関しても上空の外部の環境は地上とは全く違うので、どんな問題が生じるかを想定しなければなりません。風速110mの風が吹き荒れる中では、どのような外装が可能かを外装メーカーと一緒に考えたりなど、挙げればキリがありませんが、今までの超高層とは与条件が全く異なる中で、様々な問題に答えを見つけていく必要があります。とはいえ一つの事業ですから、技術的な問題解決だけでなく、経済性や時間のマネジメントもしなければなりません。どれも、とても難しいですが大切な問題です。

やったことが無いことをやるということは、それだけさまざまな知識を勉強しなければならないということです。繰り返しますが、初めてのことをやるには知識や経験も必要だけれども、物事の考え方や、問題解決の方法を常に考えることがとても大事です。これは施工会社に限らず、どのような業界においても共通することだと思いますが。学生のみなさんも将来的にこのような場面に多く直面すると思うので、今から経験を積むことと、それを俯瞰して見ることを意識的に行う訓練をするといいと思います。

 

 

–スケジュール通りに進めるための時間管理の秘訣を教えてください

プロジェクトというのは基本的に遅れようとするんです。遅れようとしたときにまず何が問題か、遅れようとする原因を突き止めることが大切です。工程が遅れたとしたら、その原因が職人さんの人数が足りないのか、工場でつくるものが間に合わないのか、それはなぜか、原因は一律ではないので、何が問題なのか、なぜなのかを突き詰めて改善していくということだと思います。個人の作業の中でもどこに遅れる原因があるのかを突き詰めていくべきでしょうね。ただ、要因は一つではないことが多いので、俯瞰的、総合的な視野が大切だと思います。ただ、遅れようとすることは当り前なんだ、という風に考えておいた方がいいと思いますね。割り切って考えないと大変ですから。

 
 
 
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–最後に学生に対するメッセージをお願いします。

先日東大でレクチャーをしたのですが、東大はグローバルなものの考え方に力を入れているという印象を受けました。スキルとしては英語ですね。今後グローバリズムが進むことが分かっているわけですから若いうちから訓練しておくべきだと思いますが、東大ではその教育が充実していると感じました。

モチベーションをどのように作るかということも大事です。優秀な人は明確な目的意識を持っていますよね。何をやりたいのかを明確にしていくことが能力を最大限に活かすのに必要だと思います。とは言っても、学生時代に将来のビジョンを明確に持てというのも難しいと思うので、やりたいことが見つかったときに爆発的なモチベーションを発揮する余力をとっておくことも必要です。仕事を始めてから勉強するというのは大変ですがそれをやらなければならない状況も起きますから、なんとなく学生時代を過ごしていたとしても、いざというときに気持ちを切り替えられるかが重要ですね。

組織の中でやっていくためには、組織向けの性格・資質もあると思います。内向きで意見を言えないと組織はまとめられないですから、自分の主義主張を言えるというのは結構重要ですね。まあ、僕らのような立場からすると、若いうちは寡黙に働いてくれた方が助かるんですが。歳をとって立場が変われば、今の私のように調子よく自分の主張をしなければならない(笑)。ただそれも、状況や立場によって違って来るので一概にこうでなければいけないということはありません。簡単に言えば自分の好きなことをやるということじゃないでしょうか、そうでないと悩んでしまいますからね。

 

 

インタビュー構成:秋山照夫(M1)、佐藤大基(M1)、藤末萌(M1)

写真:小泉瑛一(H22)


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