エストニア・タリン便り_2012.07.08


夕方にちょっと夕立のように雨が降ったりするものの、25度程度の気持ちのいい毎日が続いています。今回は、先日発表のあったエストニア歴史博物館のコンペの結果をまとめてみます。我々の案は2位に入賞しました

via DELFI

入賞の知らせはコンペ案につけるニックネームによって告知され、発表会場にてニックネームを書いてある封筒をあけると入賞者が分かるという仕組みになっています。発表会場はエストニア歴史博物館のホールでした。

エストニアは、公共の建物はコンペをしないといけないという定められており、3チーム以上の招待もしくは公開コンペが義務付けけられています。おそらくEUからの決まりなのでしょうが、大きいものは国際コンペをするようになっています。さて今回の国内公開コンペには文化省が入っていたため、書類による一時審査があり、それに通った17(だったと思います)チームが参加しました。合計3ヶ月の期間が与えられました。

 

コンペの概要としてはエストニア歴史博物館の敷地に加わる映画博物館、収蔵庫と外構のデザインが求められました。敷地はタリン湾を見下ろす丘の上にあり、海岸線と石灰岩の崖にはさまれています。

 

コンペ要綱より

 

歴史的な背景を説明しておきます。

ここにはバルト・ドイツ人の荘園があり1811年から1869年の火災までの間砂糖とアルコールを製造していました。1937年に所有者が代わり、タリンの工業化・近代化を推し進めたロッテルマン家のものに。(このロッテルマンの工場のあった港近くの敷地に建った我々のオフィスビルプロジェクトについて以前ブログで紹介しています)火災の後は別荘として使われ1874年には「城」と呼ばれる邸宅が加わり、レストランとして使われるなど眺めのいい避暑地として知られました。

 

コンペ要綱より

 

1937年に国が買い上げて軍の学校として使われていましたが、1940年にはソ連軍の手に落ち、寮として使われることに。その後1975年にエストニア歴史博物館に与えられ、1987年に一般公開されました。

 

via 7is7

 

建物として求められたプログラムは

チケット売り場 100m2

映画博物館 1500m2

収蔵庫 1400m2

歴史的な建物の傍だからということで屋根高、建築面積、屋根の形状についての制限は厳しく与えられ、要綱を作成した建築家は和らげようと苦労したそうです。(制限については下図参照)

 

コンペ要綱より

 

我々のアプローチは、映画博物館と収蔵庫を一直線に並べて敷地のエッジを作り、その二つのボリュームの間に舞台を挟み込みんで公園部分とのつながりを作ろうするもの。最近興味のある勾配屋根が求められてることからも、抵抗なく全体の基本形はかたまりました。歴史は遠くから見れば灰色の単調なものかもしれませんが中にはいろんな出来事があり、色に満ち溢れた人々の生活があるはずです。同時に白黒の映画についても同じことが言えます。このことを小さな色とりどりのモザイクを用い、さらにデジタルなピクセル化されている映画の現在そして現代の生活を含めて表現しようと考えました。(案について詳しくは我々のウェブサイトからどうぞ)

 

via Postimees

via Postimees

via DELFI

公開された審査結果によると主に好評価、批評された点は

全体的な配置計画はよい。

映画博物館のエントランスが大きすぎ。(最終段階でちょっと小さくしたのですが)

ホワイエがごちゃごちゃしておりプランがよくない。

マテリアルはおもしろい。

公園内に道の部分が多すぎ。

チケット売り場がエレガントでなく、門を超えているところから歴史的建物に対する敬意を払っていない。

公園内のアトラクションについては案内のしかたまで考えられているのはよい。

観光バスやバス停からの道のりまで広い範囲で考えてあるのはよい。

 

それでは他の入賞者と作品を紹介しておきます。今回は全体的に若いチームが入賞したと審査員が話していました。おそらく私が一番年長だったのではないでしょうか。

1位

Jürgen
Lepper, Margus Soonets ja Anto Savi (BOA OÜ ja Innopolis Insenerid
OÜ)

via Ajaloomuuseum

via Postimees

via Postimees

via Ajaloomuuseum

審査員の評価:求められた制限の中でうまくボリュームの分割を図り、プランもよい。コールテン鋼の使用も歴史的コンテクストに合う。エントランスを地下に持っていったため、後ろの崖への眺めが開けている。

審査員からの提案:地下をやめる。車でのアクセスの場所を変える。

(地下の使用は我々も考えましたが、工事費を考えやめています。でも、地下を使わないとなるとこの案はだいぶ変えないといけなくなりますね。コールテンはロッテルマンで使ってるから使いたくなかったけど、こうやってみると人気がありますね)

 

3位

Jaan
Port, Neeme Tiimus, Kaur Talpsep, Markus Nimik ja Elo Liina Kaivo
(PIN Arhitektid OÜ ja Kauss Arhitektuur OÜ)

via Ajaloomuuseum

via Postimees

via Postimees

 

 

 

審査員の評価:求められた制限に一番ぴったり合う提案。民族博物館としてはいいが映画博物館としてはそぐわない。公園への提案はよい。

(一番初めはこういう案を我々も持っていました)

 

入選

Karisma
Arhitektid OÜ

via Postimees

via Postimees

 

 

審査員の評価:勾配屋根を使わないといけないという制限をうまく解釈した案。映画博物館としてはぴったりだが、収蔵庫としてはあわない。公園への提案はとてもよい。

(こういう解釈案も可能だろうとあると考えていたので、誰かが実際に使って解決したのを見られてよかった)

 

入選

Alver
Arhitektid OÜ

via Postimees

via Postimees

審査員の評価:公園のランドスケープと建物を融合させたユニークな案。外観とインテリアがうまく考えられている。しかし博物館側が求める親しみやすいというイメージには合わない。

(外と中の使い方がうまかった。博物館にはあうが収蔵庫にはそぐわないこのボリュームの分割だが、どうやったら解決できるのだろうか)

この博物館は今すぐプロジェクトになるわけではなく、予算がつけば来年からということでした。財政の厳しい今日ではよくある話です。工事費の高い建物を設計すると建たない。でも面白くない建物は設計したくないというジレンマが聞こえてきます。ずば抜けた新しさに満ちた、建築の可能性を切り開くような案がなかったことは、授賞式に来ていた審査員、入選者ともども認めざるを得ません。しかし、今日的な状況を反映し、リアルに取り組むということもプロとしては必要なこと。いつの時代もどの要求に対しても建築家は答えを出していかなければなりません。

 

クライアントのプログラム的要求、新しい建築によってプレゼンテーションしたいイメージ、そして今日的な予算との折り合い等々を考えさせてくれた3ヶ月でした。今年の初めに3位入賞した学校の増築コンペに続き、事務所内の雰囲気が盛り上がってきています。次はどのコンペに挑戦するか話し合っています。

 

via Ajaloomuuseum


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