世界で最も人口密度が高い島-イスロテ島


 

“Duermen tan juntos, que sueñan
lo mismo.”

―肩を寄せ合って眠る彼らは、みな同じ夢を見る。

 

衛生設備学者フェルナンド・サリナスはイスロテ島についてこんな一文を寄せている。ここイスロテ島は世界的な島研究機関の権威である国際島嶼(とうしょ)学会なる組織によって、現在世界で最も人口密度が高い島だと認められている。

 

イスロテ島 (1)

<イスロテ島|Santa Cruz del Islote >

  

イスロテ島 (2)

 <サン・ベルナルド諸島|Archipiélago de San Bernardo >


イスロテ島 (3)

<アルゼンチーナ|la Argentina>

 

イスロテ島-正式名称Santa Cruz del Islote (サンタ・クルス・デル・イスロテ)-はカリブ海の沖合約30kmに位置し、サン・ベルナルド諸島という多島群の一構成員である。島の面積は1万㎡(100m四方)、人口約1,250人。そしてこの小さな島に97軒の小さな家がひしめき合っている。これがどのくらいの数字かと言うと東京都の人口密度の20倍、全盛期の軍艦島(端島)の約2倍に相当する。さらにこの人口密度を保ったまま面積を日本の大きさに拡大すると人口35億人(世界の総人口の半分!)になるという計算らしい。最寄りのTolú(トル)という小さな港町から高速船で1時間弱。船は如何にも南国的(南半球的には北国的)ないくつかの島々を通り過ぎてゆく。やがてコバルトブルーの水平線上に、突如としてトロピカルな造形が姿を現す。

 

そもそもなぜこの小さな島に人々がこれほど密集して暮らす必要があったのか?19世紀の奴隷制度廃止後、多くの黒人たちが新たな生活の糧を求めてカリブ海の島々へとやって来た。中でも珊瑚礁によって構成されているイスロテ島周辺は優れた漁場に恵まれていた。またこの島は珊瑚由来であるためほとんど木が生えていない。なので蚊やブヨといった害虫が少なく他の緑豊かな島と比べて随分と快適に眠ることが許されているのだ。実際僕は隣のムクラ島という美しいビーチとマングローブ林を持つ島の小屋に泊まったのだが、就寝前に肌にまとわりつく虫よけスプレーを体中に塗りたくらざるを得なかった。


イスロテ島 (5)

<島内の住宅|una casa en Islote >

  

イスロテ島 (6)

<洗濯物干場|tendedero >

 

 

イスロテ島 (7)

<キッチン|cocina>

 

イスロテ島 (8)

<リビング|living>

 

島の表面の大部分は建物で覆われており、そのほとんどが個人的な住宅である。家々はカラフルに塗り分けられ、それぞれの家族が10人ほど、多い所では20人ほどが一つ屋根の下一緒に暮らしている。そのほとんどが平屋で、中には2階建ての住居も見受けられる。内部は極質素な作りになっていて、キッチン、リビング、寝室といった我々にも馴染みのある間取りがぎゅうぎゅうに押し込められている。またこの島は珊瑚由来ゆえに水脈が存在しない。なので生活用水は全て雨水に頼っており、各戸に雨水の貯水タンクが備わっている。電気は島内のプラントでこしらえることが出来るが、それでも電気を使用できるのは夜6時~12時と限られている。この国にやって来て日本にタダでありふれている「水」と「安全」という物の価値について改めて気付かされる。(ちなみにこの島について言えば、それはそれは穏やかな時間が流れている。)

 

イスロテ島 (9)

<ムクラ島のビーチ|la playa en Isla Mucura >

  

イスロテ島 (10)

<滞在したムクラ島の小屋|la cabaña en Isla Mucura >

  


イスロテ島 (11)

<ムクラ島のビーチ|la niña en Isla Mucura >

 

イスロテ島 (12)

<ムクラ島|el techo en Isla Mucura >

 


イスロテ島 (13)

<ムクラ島|el cerdo en Isla Mucura >

 

イスロテ島 (14)

<イスロテ島を臨むSanta Cruz del Islote >

 

島民の多くは漁業を生業としており、周囲の豊かな水産資源を糧にしている。特にイセエビが名産らしく、波止場の生簀(いけす)では養殖もしていた。隣の島のビーチのレストランでこのイセエビを食したのだが、これは1カ月のコロンビア滞在中に食べた物の中で最も美味であったと言わざるを得ない。素材に敬意を表したシンプルな味付けで、焼き加減も的を得ている。このイセエビ定食と良く冷えたビールで約1,500円。コロンビアの物価にしてはかなり割高であるが、もし訪れることがあれば是非試していただきたい。


イスロテ島 (15)

<イセエビ定食|plato de la langosta 30,000COP >

  


イスロテ島 (16)

<アギラ・ビール|cerveza Colombiana >

 

 

イスロテ島 (17)

<イセエビの生簀|el cultivo de la langosta >

 

島内の家々の合間には無数の路地が張り巡らされ、その中に1本だけ「通り」の称号を得た道が存在する。その名も“la calle del Adiós”。直訳すれば「サヨナラ通り」だ。と言ってもこのサヨナラ通りの全長はわずか15mほど。もし権威ある国際道路学会なる組織が存在しようものなら、きっとこのサヨナラ通りを世界最短の通りに認定してくれるはずだろう。そんなサヨナラ通り。実際は通り、というよりかは広場あるいはグラウンドとしての機能が大きい。というのも島内で唯一の学校の校舎はこのサヨナラ通りに面している。僕が訪れた時は丁度昼休み時で、このサヨナラ通り改めサヨナラグラウンドで、明らかにその空間に適した収容人数を上回る数の子供たちがフットボールとドッヂボールの中間のようなボールゲームに興じていた。しかしながらこの島を歩いていると、どの道、どの路地でも誰かしらに出くわすことになるし、彼らは彼らで皆家族の様な親密さを醸し出している。さすが人口密度世界一を名乗るだけのことはある。男たちは日陰で博打に勤しみ、女は町角でおしゃべりにしけ込み、子供たちは東洋からの珍客に対してカリブの容赦ない日差しのような好奇の眼差しを浴びせかける。


イスロテ島 (18)

<サヨナラ通り改めサヨナラグラウンド|la calle del Adiós >


イスロテ島 (19)

<サヨナラ通り改めサヨナラ広場|la calle del Adiós >

 

イスロテ島 (20)

<イスロテ島、路地|la vida del Islote >

イスロテ島 (21)

<イスロテ島、路地|la vida del Islote >


イスロテ島 (22)

<イスロテ島、路地|la vida del Islote > 


イスロテ島 (23)

<イスロテ島、路地|la vida del Islote >

 

イスロテ島 (24)

<イスロテ島、闘鶏場|la pelea de gallos >

 

 

イスロテ島 (25)

<イスロテ島、闘鶏場|los gallos >

 

さらに島内をうろついていると小さな闘技場に出くわした。ここは闘鶏場でその隣には軍鶏たちが行儀よく納められている。闘鶏大会は年に一度開催され、この島の一大イベントとなっている。そしてこうしたイベント時に他の島々の人々との出会いなどがあり、そのまま結婚へと繋がってゆくケースも少なくないらしい。ちなみにこの島には結婚に関する暗黙のルールが存在し、それはいとこ同士の結婚は禁じられているが、はとこ同士であれば可能であるというものだった。ちなみに少し気になって調べてみたところ日本ではいとこ及びはとこ同士の結婚は法的には問題ないらしい(韓国や台湾はNG、中国ははとこまでOK)。意外と日本はリベラルな国なのだ。しかしこれほど限られた環境の中で親族同士で結婚、不貞、そして離婚でもしようものなら、もうこの上なく居たたまれないだろうな。きっとそんな日にはおせっかいな島民たちがゴシップを肴に旨いラム酒で一杯やるのだろう。 

イスロテ島 (26)

<イスロテ島の子供la niña del Islote >

 

イスロテ島 (27)

<イスロテ島の子供las niñas del Islote >


イスロテ島 (28)

<イスロテ島の子供la niña del Islote >

 

イスロテ島 (29)

<イスロテ島の青年el chico del Islote >

  

イスロテ島 (30)

<イスロテ島の大人el caballero del Islote >

  

イスロテ島 (31)

<イスロテババアla vieja del Islote >

 

冠婚葬祭で言うとこの島の葬式もまた興味深い。ここイスロテ島に墓場はなく、隣のチンチパン島の墓場へ船で赴くことになる。死者の棺を乗せた船を先頭に、参列者たちの船がその後ろに列をなして海を渡る。その厳かで詩的な情景に対して人々はこうした言葉を送る。

 

“Es hermoso que una
persona,después de muerta también sea paseada en el mar.”

―それは死者が海を散歩しているかのような美しい光景だ。

 

“Uno nace aqui rodeado del mar
y se muere y lo cruzan al cementero en lancha por el mar.”

―人は海に抱かれて生まれ、死に、肉体は海を越えて墓へと宿る。

 

イスロテ島 (32)

 

イスロテ島 (33)

 

 

イスロテ島 (34)
 

 

 学生の頃に山本理顕氏の設計課題で「1万㎡の環境単位」という課題があったのを思い出した。ちょうどこの島の面積に相当する。当時1万㎡というスケール感覚がなかなか掴めず、その規模で展開されうるべき建築の在り方、フォルムに対して日々苦悩した。そしてその後の卒業設計では、島というある完結した独自の環境におけるの建築の可能性を模索することになった。つまりこのイスロテ島は当時の僕の建築的懸案事項がそのまま具現化されたような、僕としては非常に興味深いサンプルであったという訳だ。

 

イスロテ島 (35)

“Duermen tan juntos, que sueñan
lo mismo.”

―肩を寄せ合って眠る彼らは、みな同じ夢を見る。

 

今宵、彼らは一体どんな夢を抱いて眠るのだろう。

 

 

イスロテ島 (36)

コロンビア編・完

_referencia

*1: http://www.hotelpuntanorte.com

*2: http://laprimeraplana.com.mx

*NHK地球一番

 


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