高温多湿、なにもかもがざわめくの緑の世界。
渡印したのは、未だ雨期の続く9月初旬。
毎日毎日雨が降る。日本の梅雨とは違って、真夏の夕立みたいな雨がドカドカ降る。唐突に降り出すこの雨に、毎日どこかしらでうたれることが私の日課になった。事務所は雨漏りで、桶やらバケツやらが大活躍している。
夜、突如一声に吠え出す犬に驚いて、実家で聞く田んぼの蛙の鳴き声を思い出した。「バァァンッ!」と一日に何度か聴こえる単発の爆音は、ヤシなんかの実や葉が落ちた音。「年間、木から落ちるヤシの実に当たって死ぬ人は、サメに襲われて死ぬ人よりも多いんだよ」と教えてもらったが、それに驚けるほどサメは身近な生物ではない。
徒歩10分の通勤路で、白い毛に黒い肌の猿に会った。民家の塀に堂々と座っていて、その威厳ある姿に見惚れてしまった。時折頭上でワサワサやっていたのは貴方なのですね、と。牛はもちろんのこと、イグワナみたいな何かとか、巨大すぎる蛙とか、一般的なリスとか、いろんなものと遭遇する。
停電も日常で、停電に満たない超lowな電力供給という状態は日本では経験したことはない。ファンが可能な限りslowに回る姿は、見ていて不思議な気持ちになる。コンセントが発する火花も怖くはなくなった。
ワークショップ(事務所)にはほとんど室内がない。アーキテクトの部屋はベニヤとモスキートネットで囲われているが、大半はトタン一枚、屋根の下。太陽光とトタンの蓄熱を体感する。しかし、ファンが回ってさえいれば至って快適に過ごせるもので、密閉された空間の必要性もさほど感じない。そんなこんなをガラスの付いていない民家の窓や、塞ぐ気のない穴を見て納得したり、しなかったり。人間も人間で、夜中の2時や3時まで爆音で音楽を流し、踊っている。
狂気的な勢いの緑と、そこらじゅうにいる何かしらの動物たちと、歌と踊り好きな人間たちが日本では見られない均衡を保ち、この土地を生きているらしい。
ここに暮らしているという実感はなかなか湧かないが、ここの土地は気に入っている。
仕事の合間、ヤシの木越しに、黄金色の輝きを放つ夕焼け空を見ると、脚と地面がくっついているのかどうか分からなくなる。