メイド・イン・バルパライソ


 

何故だかその頃の私はみすぼらしくて美しいものに強くひきつけられたのを覚えている。風景にしても壊れかかった街だとか、その街にしてもよそよそしい表通りよりもどこか親しみのある、汚い洗濯物がほしてあったりがらくたが転がしてあったりむさくるしい部屋が覗いていたりする裏通りが好きであった。雨や風が蝕んでやがて土にかえってしまう、といったような赴きのある街で、土塀が崩れていたり家並みが傾きかかっていたり、勢いのいいのは植物だけで、時とするとびっくりさせるような向日葵があったりカンナが咲いていたりする。

-梶井基次郎「檸檬」より


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<バルパライソの街並み>

 

今日はチリのとある港町バルパライソについて書いてみよう。バルパライソはチリの細長い国土の沿岸中央付近に位置し、内陸の首都サンチアゴから車で1時間半。約200年前からゴールドラッシュに沸くアメリカ西部とヨーロッパをつなぐ寄港地として重要な位置を占め、街は大いに繁栄した。しかし1914年のパナマ運河開通と共に港としての権威は低迷し、今ではかつての栄華も色あせてしまった。

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<バルパライソ港>

 

 

 

 

 

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<ソトマヨール広場と海軍会館>


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<エチャウレン広場>

 

 しかし現在でもチリ最大の港湾都市であることに変わりなく、また同時にチリを代表する軍港でもある。沖合にはグレーの軍艦が鎮
座し、沿岸には大型の貨物船がカラフルなコンテナたちの積載を待ちわびている。山と海の間に横たわる平地に荘厳なコロニアル建造物が建ちならび、そしてそ
の背後にそびえる丘は色とりどりの家々で埋め尽くされている。

 

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<海からの街並み>

 

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<丘からの街並み>

 

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<夜の街並み>

 

バルパライソの特徴はやはりこの丘を埋め尽くす住宅群、あるいはスラムである。この丘は約50に分けられ、それぞれに名前が付けられており、ツーリスティックな丘(コンセプションの丘)、アーティスティックな丘(ベジャビスタの丘)、裕福な丘(ロマの丘)、貧しい丘(ラレインの丘)、危険な丘(トロの丘)など。また家々は上へ上へとスプロールし、そして一般的に上に行けば行くほど治安も悪化すると言われている。

そしてこの平地の歴史・商業地区と丘の住宅地とを結ぶ手段としてアセンソール(エレベーター)というものがある。

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<アセンソール・アルティジェリア>

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<アセンソールのインテリア>

これはエレベーターというよりはケーブルカーのようなもので、古いものだと1883年から操業している。料金は300チリペソ(50)1分ほどの乗車で目的地にたどり着く。しかし20世紀の車の普及により徐々に需要も減少し、現在は生活用というよりも観光用の乗り物という色合いが強い。当初31基あったアセンソールのうち現役で稼働しているのはわずか6基である。

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<アセンソール・モンハス>

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<スイス人アーティストによるインスタレーション>

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<架構は街の道路をまたぐ>

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<住宅の隙間を走るアセンソール・マリポサ>

   しかし最近になっ
てリノベーションされたものやアート作品として改修されたりなど、新たに活用しようという動きも見受けられる。そしてこのアセンソールと街と関係性がなか
なか面白く、あるものはレールが道路をまたぐように暴力的に架けられていたり、あるものは道路をくぐり民家の間に吸い込まれるように走っていたり、あるも
のはいわゆるエレベーターのように垂直に移動する。そしてそれらはわずか1分の移動で風景を大きく変化させる。

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<アセンソール・ヴィジャセカ>

 

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<垂直式アセンソール・ポランコ>

 

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<アセンソール動力仕掛け>

 
<アセンソール・バロン>

 また地形を繋ぐ階段もユニークである。ついつい登りたくなるカラフルな階段、思わず上るのをためらう鉄砲階段。地形と複雑に絡み合う階段などなど。

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<急な階段>

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<狭い階段>

 

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<ヴィヴィッドな階段>

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<描かれた階段>

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<曲がった階段>

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<複雑な階段>

  そして階段だけでなく、街並みを構成する壁もまたカラフルなグラフィックで覆われている。

 

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<グラフィック①>

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<グラフィック②>

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<グラフィック③>

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<グラフィック④>

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<グラフィック⑤>

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<グラフィック⑥>

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<グラフィック⑦>

これらは落書きと呼ばれるような粗末なものからチリを代表する画家(ロベルト・マッタ)などが描いたもの
など様々である。元々バルパライソには芸術家が多く住みつき、街中には小さなギャラリーや工房などが点在している。また通りを歩いているとちょうどペイント中の現場に出くわすこともある。日本の雑多な表層とはまた違った都市の更新の息吹を感じることができる。

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<青空美術館:壁画⑧リカルド・イララサヴァル_1992
>

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<青空美術館:壁画⑩ロベルト・マッタ_1992
>

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<バルパライソ出身の版画家_ロロ・コロン>

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<ペインティング現場>

 そして壁画同様に家々もまたカラフルに塗り分けられいる。こうした新旧色彩様々な住宅同士が互いに接続し、連綿とした都市のファサードを作り出す。バルパライソは引きで見た時の全体としての鮮やかさ、そして寄りで街を歩いた時の鮮やかさ。そうした点描画的な二面的な面白味を持った都市であると言える。

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<カラフルな街並み①>

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<カラフルな街並み②>

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<カラフルな街並み③>

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<カラフルな街並み④>

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<パブロ・ネルーダ邸>

  これらは家は表面にトタンが張り付けられたたものが多い。それらは海からの湿気や風を防ぐために貼りつけられ、ペンキ塗りたての鮮やかな色をしたものから、雨風によって朽ちた渋い風合いを持ったものまで様々だ。

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<トタン①>

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<トタン②>

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<トタン③>

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<トタン④>

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<トタン⑤>

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<トタン&グラフィック>

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<犬小屋もトタン&グラフィック>

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 これらのユニークな街並みを通してバルパライソは全体として世界遺産に登録されている。なので国内外からの観光客も多く、ツーリスティックな丘にはホテルやドミトリー、レストランやセンスの良いギャラリーや土産物屋が軒を連ねる。

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 <アートギャラリー>

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<パン屋>

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<見晴らしの良いテラスを持つレストラン>

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<バルパライソで最も古い大衆レストラン>

 

 

 

また海が近いだけあって、レストランでは新鮮な魚(主に白身魚)や貝(アワビやムール貝)などをふんだんに食することもできる。

 

 

 

 

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 <コングリオ(チリの高級白身魚)のフライ>

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<エンパナーダ・マリスコ(魚介のパン包焼き)>

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<パイラ・マリーナ(魚介ダシのスープ)>       

 

 

 

 

 

 しかしバルパライソの街歩きの深入りには十分に注意しなければならない。

 

 

 

 

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<スラムの街並み①>

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<スラムの街並み②>

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<スラムの街並み③>

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<スラムの街並み④>

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<スラムの街並み⑤>

 

 

 上記の通りバルパライソは丘によっては治安が悪いエリアも多く、また一本通りを変えただけでも急に人通りが少なくなったり、
家の中の現地住民から「この辺りは危ないから、早く去れ」と忠告されたりする。かく言う僕も一度強盗にカメラを強奪された。比較的危ないと言われている丘
の昼下がりの比較的開けた通りにおいて。スラム特有の緊張感と生活感を体験することが旅の嗜好の一つである僕としては、自業自得と言えばそれまでである。
しかし現地のカメラマンでさも被害に遭うという話も聞くとやはり穏やかな街であるとは言い難い。なので事前に一人で行っても大丈夫一人で行くべきではない
所、一人じゃなくても行くべきではない所きちんと把握しておく方がベターだろう。これまで日本、海外も含め、こうした事件に巻き込まれたことなかったので、僕の中で暫定的にバルパライソは世界最凶の街という事になっている。

 

 

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 <メイド・イン・バルパライソ①>

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<メイド・イン・バルパライソ②>

 

 

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<メイド・イン・バルパライソ③>

 

 

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<メイド・イン・バルパライソ④>

 

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<メイド・イン・バルパライソ⑤>

 

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<メイド・イン・バルパライソ⑥>

 

 

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<メイド・イン・バルパライソ⑦>

 

 

  

 しかしハイリスク‐ハイリターンとはよく言ったもので、バルパライソの街を歩いているといつも新しい発見がある。色彩感覚、平面構成、地理的所作、片持ちの造形、ランドスケープとの出会い方等々。丘に建つ個々の建物は満足のゆく材料や構法で建てられたとはおよそ言い難い。それらは伝統的とかヴァナキュラーといったレールに乗っている訳ではないが、地形や素材、気候、経済に基づいたある種の「バルパライソ感」を醸し出している。そしてこうした街並みと山と海が織りなすヴィヴィッドな暮らしとランドスケープに僕は魅力を感じている。たとえ強盗に遭おうとも、食中毒で病院送りになろうとも (何かしら貝類に中った)、なかなかこの街を嫌いになれそうにはない。

 

 

メイド・イン・バルパライソ (79)

 Puerto Valparaíso cada día más hermoso.


バルパライソの港は日々美しく

 

 

 次回はこのバルパライソで今個人的に進めているプロジェクトについて書こうとおもう。

foto_Yuji Harada


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