<オレンジ湾通りの改修プロジェクト 模型写真>
今回は現在個人的に進めているバルパライソでの民家改修プロジェクトについて書こうと思う。
バルパライソについてはこちら→メイド・イン・バルパライソ
<CalleBAHÍA ORANGE _オレンジ湾通り>
このプロジェクトの敷地はバルパライソを構成する40の丘のうちコルディジェラの丘というやや貧しいエリアの一画である。間口12m、奥行き45mと細長く、さらに高低差が15m近くもある斜面地である。
<敷地断面図>
<敷地遠景>
<敷地オレンジ湾通り側ファサード>
<既存家屋外観>
<既存家屋外観>
<既存家屋内観>
敷地の上端はオレンジ湾通りに、下端はシントゥーラ通りに接続しており、オレンジ湾通り側には既存の築50年は下らない木造家屋がある。だがこの家屋はかなり傷んでおり、およそ人が住める状態とは言い難い。周辺は質素でカラフルな低層家屋が軒を連ね、この住宅もそうした街並を支える一構成員である。そしてこの高台からはそうしたバルパライソの儚くにぎやかな街並や色鮮やかなコンテナコンビナート、そしてその先に広がる碧々とした太平洋を眺めることが出来る。地形、歴史、ランドスケープ、港町。そうした僕の建築的趣向がぎゅっと詰まったこの荒々しい土地を僕はすぐに気に入った。
<既存家屋テラスからの景色>
一方でこの救いようの無い掃きだめのような土地をどうするべきか、とバルパライソの街を上に下にとウロウロしながら考えた。そうして街を徘徊していると、あちこちで「バルパライソ的な」エレメントを発見することが出来る。カラフルな色使い、錆びたトタン、木サッシの窓、急斜面を貫く階段などなど…そうして見つけ出した要素を5つに精製し、それらを『バルポ建築5原則』としてひとりでに声高らかに宣言するとともに、その原則を足がかりにこのプロジェクトを進めて行くことにした。(「バルポ」はバルパライソの略称)
−バルポ建築5原則−
①水平連結住居
②波打つファサード
③突発的な海へのビスタ
④オブジェクティブな垂直動線
⑤持ち上げられたボリューム
<オレンジ湾通りの改修プロジェクト アイソメトリック>
その1—水平連結住居
<水平連結住居>
<水平連結トタン>
<ファサードフォトモンタージュ>
街を歩いていると多くの家屋が互いに連結し、水平に繋がっていることに気がつく。このプロジェクトの敷地も同じように隣家どうしが連結している。ここでは素直にファサードを連結させ、この土地への参入の足がかりとする。
その2—波打つファサード
<波打つファサード>
<波打つファサード>
<オレンジ湾通り側ファサード>
<オレンジ湾通り側ファサード 模型写真>
<波板モルタル モックアップ>
多くの家々の表面はトタンの波板で覆われている。これは海からの潮風の害を防ぐためであり、かつ安価で気軽にペインティングを施せるなどの理由からである。ここでもこの慣習を踏襲し、ファサードは波立っている。ただしその素材はトタンではなく、既存家屋で使われていたトタン波板を型枠とし、モルタルを打つことを画策している。他にもポリカーボネートやノーマルなスチール製波板、コリウエと呼ばれる直径3cmほどの細い竹材を繋げ合わせたり、いくつかの表情の異なる波を表現しようと考えている。周囲が鮮やかな色の使い分けで個性を出そうとしているが、こちらでは素材の切り替でそれを目論んでいる。オーナーと一緒にモックアップを作ったりもした。
その3—突発的な海へのビスタ
<突発的な海へのビスタ>
<プロジェクト平面図>
<オレンジ湾通り側アクセス>
<内観フォトモンタージュ>
バルパライソのクネクネとした坂道を歩いていると急に視界が開け、素晴らしい海への眺望に出くわすことがしばしばある。ここでは一連の住宅の壁面にぽっかりとした入口を設け、海への突発的な海への出会いを演出した。そしてそのまま内部へ進んで行くと、水平方向に連なる開口部からバルパライソの街並やスウと伸びる海への眺めを堪能することが出来る。
その4—オブジェクティブな垂直動線
<アセンソールと階段>
<アセンソールとアート>
<プロジェクト断面図>
<模型写真>
<模型写真>
<フォトモンタージュ>
この街の最も特徴的な要素のひとつ、それが40ある丘の要所要所を貫くアセンソール(ケーブルカー)の存在だ。バルパライソの街全体でおよそ15機のアセンソールがあり、それらは街中に突如として現れる。古いものだと100年以上の歴史を持ち、今でも市民の足として日々上に下にと行き来している。ここでは整えられた生活の場とバルパライソの大地とをつなぐオブジェクティブな階段室を用意した。
その5—持ち上げられた平面
<持ち上げられた平面>
<持ち上げられた平面>
<持ち上げられた平面―オーナーとのフィールドワーク>
<フォトモンタージュ>
<模型写真>
<模型写真>
40の丘とわずかな平坦地によって構成されているここバルパライソにおいて、全く平らな土地に家を構えるということは容易なことではない。なので多くの家屋は柱や梁で人工的な平面を創出し、その上に各々の住処を築き上げている。ここでは既存の荒いコンクリートの支柱を残しながら平面の獲得に精を出すことにしている。
<現地での作業風景>
プロジェクトは全体としてとてもゆったりとしたペースで進んでいる。だから僕も平日はサンチアゴで社畜として働き、週末はこのオレンジ湾通りの敷地に来ては既存の寸法を測ったり、小便臭い廃屋の中で粛々と図面を描いたりするようなペースでおよそ間に合っている。オーナーは毎年末に行われるバルパライソ年越し花火大会までには完成させたいと意気込んでいるが、まぁ怪しいものだ。とりあえずはこうしてチリで建築を考えることが出来る機会に感謝しつつ、海を見ながら気長につきあって行くことにする。
<模型写真_材料:バルサ材、石膏、大地>
*fotografia_Yuji Harada