円錐会セッションVol.1レポート
5/11、円錐会セッションVol.1-北山恒の建築を読む–として、
馬車道YCCにてレクチャーと対話が行われました。
当日は学部生から西沢立衛さんをはじめとするOB、OG生、設計助手、特別ゲストとして乾久美子
さんまで幅広い世代の方々が参加しており、世代を超えた同窓会のような雰囲気でした。
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レクチャーは、2014年前期北山スタジオ課題でも取り上げられている、
「個人と国家の<間>を設計せよ」
(山本理顕さんが現在岩波書店「思想」で連載している論文)という一文からはじまる。
ハンナ・アーレントの「人間の条件」から”in-between”という、
人と人を結びつける(介在する)ものについて。
そして山本理顕さんの”No man’s land”という、社会と接続する空間の存在。
Y-GSAのパワープラントのプレゼンテーションホールはまさに
“No man’s land”でありY-GSAと社会を結びつけるものである。
話はワークショップ時代に移り、六本木のバーと名古屋のバーの二つの作品紹介があった。
悪意や反感を持ちながら作っていたという作品からは空間実験的な要素が見られ、
空間が思想を伝達する言語のようである。
また、そもそも”ワークショップ”とは民主主義をつくる方法論のことであり、
・建築を生み出すプロセスを変える意思があったこと
・建築は集団でつくるものである
という北山さんの学生時代の考えがあらわれたものだと語られ、
常に常識に対して挑戦的な姿勢が感じられた。
ワークショップ解体後に設立された、architecture WORKSHOPの由来も興味深い。
磯崎新氏の明言する「大文字の建築」に対し、
「小文字の建築」を作りたいという思いから頭にarchitectureがつけられた。
だからarchitectureは必ず小文字でなければならないと北山さんは語る。
そして、民主主義の方法論であるWORKSHOPを大文字にしている。
ここにもまた北山さんの思想が溢れているのだ。
今回出版された「北山恒の建築空間 in-between」の表紙にも印刷された、
第12回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展で使用された航空写真をもとに、
日本の町並みが絶えず生成変化する様子、パブリック/プライベートという概念が人間を抑圧している状況、etc
<新しい建築>に向けて我々が考えていかなければならないことが次々に示され、
まるで北山さんの思想を凝縮したかのような濃密なレクチャーであった。
その後の聴講者による感想・質疑では、
“いかに北山さんの思考にブレがないか” ”北山さんの言説の強さ”
を軸に複数の世代のOBOGの方が学生時代に北山さんから受けた影響とともに、
制度を疑っていくこと、住宅を社会化するシステム、コンペやプロポーザルの問題点、
都市・建築のリサイクルによる日本の可能性、新しいアーキテクチャーの概念、etc
さらに北山さんの思想を掘り下げるような対話が行われた。
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建築の必要・不必要が盛んに議論される中で建築の可能性について考察する学生にとって、
レクチャー・対話を通して印象的であったのは、
「建築の前提/建築の求められる仕組みを育てなければならない」
という未来を見据えたテーマです。
建築をハードウェアでなく「社会システムのデザイン」だと思えば、
まだまだやれることはたくさんあるという明るい未来。
西沢立衛さんはレクチャー後の感想で、
「北山さんはことばを少しずつ育てていき、徐々に思考を獲得していっているように思う」
とコメントしていました。
振り返ると、昨年のY-GSA主催”ARCHITECT’S LECTURE SERIES #09 Koh Kitayama”では、
「今はまだ建築ではないものが今後建築になる気がしている」
と発言されていて、1年という短いスパンの中でも見て取れるくらいに
日々更新される言説・思考に、北山さんの建築に対する誠実さを感じました。
ワークショップスタートから現在までのどの場面でも、
北山さんには”ぶれないコア概念”と”常に常識と戦い未来のきっかけをつかむ”という二つの軸があり、
若い世代である我々は北山さんの背中を追いつつも、
自分の思考を育てて北山さんと同じように”新しい建築”にトライしていきたいと感じています。
Y-GSA M1江島史華
写真:円錐会