ベルギー・ブリュッセルより 07


ー近況1ー
散ったテーマで、しばらくぶりにコンペ中。
今回のお題はオフィス、モジュール化、マスタープラン、パーキング、既存社屋との接続、ランドスケープ。

ー近況2ー

筆者も4年程チームに加わり図面を描き続けたプロジェクトの本が出版されました。現場はまだまだ進行中。本を手に取れる機会があれば是非見てみてください。パリのブルーバード・マクドナルド・プロジェクト。

さて本題、最近の似たような設定のお話です。

ヨーロッパには国や市の行政レベルで、ガバメント・アーキテクトと呼ばれる仕事がある街や国があります。ベルギーには長らくなかったのですが、いまでは北のフランダース地方(オランダ語圏)には3代目の、ブリュッセル地方にも第一代目のガバメント・アーキテクトがいます。それぞれ任期は4年と5年。南のワローン地方にはまだいない制度のようです。彼らの役割は、国や街にとって文化的に重要なプロジェクトについて’ある程度の指針’を示す事です。彼らは政治家ではなく、あくまで建築家として説明責任を求められます。言い換えれば、定義やその権力が曖昧な場合もあって、コンペの審査などに関わるため利益誘導が安易に行われうる立場でもあります。
先週、市の中心部にある建て直しの決まった銀行社屋で、ブリュッセル市の初代バウ・メースター(バウ=建設、メースター=マエストロ=匠)による5年の任期終了に伴う展示会がありました。それというのもこの建物、もともと銀行社屋なのですが、その建て替えコンペがバウ・メースターの事務局によって運営された事に関係しています。
当然銀行側は、事前にコンサルタントを使い改修と建て替えの費用対効果を比較調査済みだったらしいのですが、市の中心部という立地と歴史的価値のある建築物ということを踏まえて、市のヘッド・アーキテクト事務室へコンペ実施の依頼をしたということです。

建物自体、ブルータリズム基壇の上に鉄骨オフィスファサードという、ちょっと変わったコンビネーションが時代感をよく出していてます。街に住む人なら、ああ、あの建物ね、と一度は必ず前を通ったことのある立地。ブリュッセル中央駅のすぐ近くで傾斜地に建ち、約10メートルの高低差を利用したデザイン。建築家はベルギーモダニズムのファン・カイク、建物内にはベルギーを代表するインダストリアルデザイナー、ジュル・ワッベスによって内装デザインがされた金庫室もあります。

展示会の方は、建て替えのため既に銀行業務を外に移した為、普段は入ることのできない金庫室も開放されて、素晴らしいデザインの天井(写真、意外と和風)、金属と石で出来た立派なロビー空間に”工業用ダンボール”(意外とBAN風)でパーティションを切り、そこここに5年の任期中に関わった、もしくは問題意識から立ち上げたプロジェクトの紹介というアプローチ。

ココまでの設定の面倒臭さがすでに「ベリーヨーロピアン」な感じなのですが、

話はさらに続き、この銀行社屋のために企画されたコンペの結果は、既存の建物を大幅に改修した案と新築案で争われ、最後はクライアントの元々の意向であった’新築’案に落ち着きました。
‘改修’案ー有名フランスの建築設計事務所ー既存建築を改修+巨大地下パティオを作り、そこを取り巻く地下5階のオフィス空間を第三のネガティブタワー(景観を変えない装置)として提案し、景観への配慮と既存社屋の建築的価値を最優先した案、は落選してしまいました。

落選の理由はクライアント側に、地下の執務空間のアイデアが受け入れられなかったのが大きな理由だったようです。それ以外の、景観、インフラ接続、アーバニズム、パーキング、全てこの改修案の方が解決策としては優れていた様に思えました。

勝利案ー有名オーストリアの建築設計事務所ーは有機形態のスライムみたいなミドリ色のオフィスビル。

いかにオフィスが使い易く(新しい基準で設計、もしくは誰にでもわかりやすいコマーシャリズムの新しさを持ってい)ても、1.中央駅前 2.アールヌーボーで有名なオルタ設計の美術館の真横 3.既存建築の歴史的価値等、都市景観上あんまりじゃ無いかと思えてしまいます。

はじめから保存などする気がなく建て替えたかったクライアント側に、ガバメントアーキテクトの公的立場とコンペというプロセスを逆に利用されてしまった感じもします。

ブリュッセルに住む一市民としてはとても残念です。単純にフランス事務所のファンだからかもしれませんが、案の斬れっぷりが良かったです。出版されていないのプロジェクトらしいのでここに画像を載せられないのが残念です。

展示会は他にも、当事務所が勝利したものの数年後に実施がキャンセルされたコンペ案も展示されてあったりして、アドバイザーや審査員がいかにクライアント(時には市であったり)に対して機能するのが難しいかを、まざまざと見せつけられた展示会でした。カタログの表紙の文がそのことをよく表しています。

初代ブリュッセル市ヘッド・アーキテクトの残した足跡は多岐に渡り、このタイプのポジションに就いている人としては奇跡的に『スタイルの押し売り』をすることなく、難しい立ち位置ながら政治や行政機関に関わって行く方法論を、時にはその失敗を含めて見せることができたのは特筆すべきことでしょう。
北のフランダース地方(オランダ語圏)では、3代目のバウ・メースター(政府建築家、任期4年)がいるのですが、フランダース政府と一部の建設業界団体の圧力によって今そのポジション自体を無くしてしまおうという流れになっています。こちらはスタイルの偏重が建設業界から批判を買ってしまったようです。バウ・メースターが関わるコンペでは絶対に勝てなくなってしまった建築家や大手組織事務所がある事は事実でしょう。

ベルギー、特にブリュッセルは、事務行政手続きが複雑怪奇で上手く行かないことで有名ですが、こういうところまで入り込んだウイルスのようなものなのか、と思ってしまいました。ここまで来ると本当に「異」文化世界、その結果出来上がる街並みも混沌としているのですが、逆に個性になっているのはこの街の不思議な魅力です。

今日は雨のブリュッセルより、


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