Interview#042 連勇太朗


 

連勇太朗(むらじゆうたろう)

1987 神奈川県生まれ。
2012 慶應義塾大学大学院 修士課程修了
2015 慶應義塾大学大学院 後期博士課程単位取得退学

2012-2013 慶應義塾大学大学院 助教(有期・研究奨励Ⅱ)
2012- モクチン企画設立、代表理事に就任
2013 C-Lab Collaborator(アメリカ、NY)
2013-2014 横浜国立大学大学院Y-GSA非常勤教員
2015- 慶應義塾大学SFC 特任助教 (SFC-SBC)
2015- 横浜国立大学大学院客員助教 (IAS/Y-GSA)

 

はじめに

横浜国立大学大学院/建築都市スクール”Y-GSA”では創設した2007年より「横浜建築都市学」という授業が行われている。「建築・都市の未来はどこに向かうべきか」を考えるために、様々な分野の講師を招聘して、建築・都市・社会を相互に関連づけながら議論していくことを目的とする2時間半のオムニバス・レクチャーである。2015年度・後学期の「横浜建築都市学」のテーマは「20世紀の思想から考える、これからの都市・建築」であり、スタジオ・マネージャーの寺田真理子氏によるコーディネートのもと全5回が行われた。今回取り上げた5つの都市論・建築理論は、現代、そして未来の都市・建築を考える上でも重要な視点を投げ掛ける。私たちはそれらを相対化しつつ、私たち自身の建築・都市理論の構築につなげていくことができればと考えた。各回の登壇者はY-GSAの講師、ゲスト講師、モデレーターを務める若手建築家、理論家の3名で構成された。ユニコーンサポートではこの「都市学」のスピンオフ企画として3回分を取り上げ、学生がテーマとなった書籍を事前学習し、都市学の講義を受けた後、各モデレーターに対してのインタビューを行った。

11月10日に行われた第2回目はY-GSAから北山恒氏、外部からは難波和彦氏、モデレーターは連勇太郎氏を迎え、1977年に刊行されているアレグザンダー著の「パタン・ランゲージ」をテーマとして講義と議論が行われた。

その後日、モデレーターの連勇太郎氏を訪ねインタビューを行った。

 

まず、先日に行われた「都市学」での難波さん、北山さんとの対談を終えての感想をお聞きしたいのですが、いかがでしたか?

 

難波さんはアレグザンダーの意図とか、そして思想的な成果みたいなものを正確に読み取って、その可能性と課題をとても丁寧に私たちに伝えていると思いました。むやみに拡大解釈することなく、あくまでも「空間や建物をつくること」において、アレグザンダーの理論の可能性をみている人だと思いました。

一方で、アレグザンダー自体の受容のされ方は、情報系の分野で受け入れられたりと様々なかたちで展開しています。私自身も、慶應大学のSFCという特殊な環境下にいた人間なので、アレグザンダーを知ったのも建築からではなくてプログラミングの勉強をしているときでした。なので、アレグザンダーのどこに可能性や限界を感じるのかは、やっぱり違うというのはありました。

 

そんな中でも「パタンランゲージ=認識図式」という共通認識はあったようですが。

 

パタンランゲージが認識図式であると言語化した、難波さんの表現には僕もすごく納得しました。パタンランゲージが本質的に何なのかということに対して妥当な言葉だと思いました。「モノを見る眼鏡」とか「空間を抽象的に把握する眼鏡」としてパタンランゲージは使えるので、それが教育に使えるという北山さんの意見もまさしくそうだと思います。

ただ一方でそれは、パタンランゲージの可能性のうちのひとつだとも思っています。アレグザンダーの思索の成果を空間の認識図式をパタンとして形式化したことであるということ自体は、これからの新しい建築とか建築家像を考えるときのエンジンにはなかなかなりにくいと思うんです。教育で使えるのはそうだとしても、本当にアレグザンダーによる成果は建築の思想や実践をアップデートする新たな方向性を指し示す力にはならないのか。私は、アレグザンダーの思想をもう少しアクチュアルなものとして扱いたくて、そういう意味では、建築を才能とかセンスとかそういった属人的な要素から自由にしていく、そういう可能性を持っているんじゃないかと思っています。形式やパタンとして建築がアーカイブ化でき、アイディアがどんどんストックされ共有され多様な主体がデザインプロセスに参画していくと社会や都市はどう変わるのか、アレグザンダーを通してそうしたことを考えるととてもわくわくするんです。

だからアレグザンダーの『形の合成に関するノート』から『パタンランゲージ』への流れというものを、丁寧に見直すことがとても重要だと思っています。『形の合成に関するノート』は「たくさんの変数を数学の集合論を使ってグルーピングしていくと、ダイアグラムが出来る」というものです。だから、例えば住宅でもやかんでも都市でもなんでもデザインする時は必要な要素を全部列挙して、それを束ねていくことで、プランニングに必要なダイアグラムをつくる、というアプローチでした。でも、実際の設計では1回1回必要な要素を詳細に挙げていくなんて普通はコストが高すぎて、やらないじゃないですか。そうしたなかで、色々なプロジェクトをこの手法でやっていくと、自然に繰り返し発生するダイアグラムがあるということを、アレグザンダーのチームは気づきます。それを保管・保存・収集していくということが、パタンランゲージの原型なんです。

初期はパタンランゲージってプロジェクトごとに特性のパタンランゲージがあったりしました。なので、「ペルーの住宅建設のパタンランゲージ」とか、「メキシコのハウジングプロジェクトのためのパタンランゲージ」とか、そのプロジェクトごとにパタンランゲージがあって。それをどんどん純化し、ユニバーサルなものにしていったのものが、皆さんが普段イメージするパタンランゲージです。wikipediaの背後にある発想はこのプロセスに影響を受けています。アレグザンダーの考え方は、そういった意味でプログラミングなどの情報技術の世界にも影響を与えていて、僕はそっちの方から入った人間なのでそうした発展途上の時代にパタンランゲージの可能性があると思っています。

 

対談の時にWikipediaとか情報系の分野で、実践的に使われてるということを初めて知りました。連さんもプログラミングの勉強をされていたんですね。

 

僕は高校生の時、ジャーナリストになりたかったんです。父はAAスクールの出身で、セドリック・プライスの助手をやっていました。AAスクールはアヴァンギャルドな建築教育をしていますから、小さい頃、家に帰ると母が父を石膏で固めている現場を目撃したり、父がベランダで食パンを並べて青いスプレーで食パンを塗装し、乾いたら1枚ずつサランラップで包んでいて…という現場を目撃したり。

いま聞くと、青い食パンの話は水面のテクスチャーを違う素材で再現するスタディーだったらしいです…。そういう家だったので、そういうことをするのが建築家の仕事だと思っていました。だから、建物を作るということが建築家の仕事だという認識があまりなかったです。

それで高校の時、「俺は建築はやらない、ジャーナリストになる!」って宣言したんです。父には「好きなことをやれ!」と言われたんですけど、ある日家に帰ってきたら机のうえにレム・コールハースの『錯乱のニューヨーク』が置いてありました。なんだろうって思って読んでいたら、ジャーナリスティックな視点でニューヨークという都市を語り批評する手際が面白くて、プロフィールを見ると建築家って書いてあるんですよ。しかも以前はジャーナリストであったと。それで、建築家になるとジャーナリズムもできて、しかもモノも作れる、提案もできると思って、それで建築の道に進むことにしました。

だからそういう意味で、スタート地点では社会批評とか思想に興味があったので、かっこいい住宅作ろうとか、かっこいいものを作ろうということは、当時のモチベーションのなかにはなくて、自分の提案によって社会を変えていくことができる職能として、建築家に可能性を感じていました。

だから建築思想の勉強をするモチベーションになっていたのも、新しく社会を見る眼鏡を習得したいという想いがあります。なので、思想そのものにアクチュアリティを感じるかどうかということが重要で、そうしたなかで出会ったアレグザンダーは衝撃でした。レムに出会ったときと同じくらいの衝撃をアレグザンダーにも感じました。彼の思想にアクチュアリティを感じました。過去の思想を知るということは教養としてはもちろん大事だけど、一方でパーソナルなレベルで、理論とか思想にアクチュアリティを感じるかどうかということはすごく大事だと思います。逆にそういう本を探せるかどうか、出会うことができるかどうかは結構重要なことですよね。

 

自分がアクチュアリティを持って本から思想を読めているかと言ったら、まだできていないかなと思いました。

先生はいろいろ読めと言うかもしれないですけど、僕は100冊読むよりは1冊の本を深く理解する方がいいんじゃないかと思います。今の時代、オールマイティはありえないじゃないですか。一点突破するしか、物事の限界って乗り越えられない側面もあると思うんです。そうしたときに、一点突破のお供をしてくれるツールとして僕の場合はアレグザンダーが思考のエンジンになったんです。実際僕は学生時代にアレグザンダーとレムと菊竹清訓さんの本は本当に何回も何回も読んだので、だいたい本のどこに何が書かれているか今でも覚えているし、学生時代にそういう本を一冊でもいいから見つけられるかどうかはとても大切なことだと思うんですよ。今回の「横浜都市学」はそういうものと出会うきっかけになる場の一つだったと思います。都市学で扱われた全5回の本をまんべんなく丁寧に読むよりは、ひとつ自分の心にヒットしたものを集中して読むとか、そういう受講の仕方もいいんじゃないでしょうか。

悩んでいるひとほど、ちゃんとそうした本を見つけておくといいと思います。その本が、自分の心の支えになってくれると思います。自分の思考をドライブさせてくれる思想書を1冊見つけおくると、それが強い味方になってくれると思いますよ。北山さんと今回お話しして、今回の都市学で取り上げられている本に対してはアクチュアリティのあるものとして読まれているんだな、と感じました。ぼくの場合はこの4、5年、アレグザンダーの理論で一点突破してきたところもあるので、逆にそろそろ新しい展開を考えなければとも思っているのですが。(笑)

 

今後のことという意味では、パタンランゲージに方言みたいなものが登場した場合にそれはどうなっていくとお考えですか?具体的にいうと、連さんが代表理事をされている「モクチン企画」は仕事の拠点を蒲田に置いているということですが、蒲田以外のところでモクチン企画が提案しているモクチンレシピが使われることが起きると思うのですが。

 

「モクチンレシピ」は木賃というタイポロジーに対するデザインのアイデアです。なので、実際には首都圏をはじめ様々な地域で使われています。最近は青森の会員の方もいます。

ちなみに、パタンランゲージからインスパイアを受けて最初にモクチンレシピを考えたとき、いわゆる本になっているパタンランゲージは253個もアイデアがあって数が多すぎるし、ユニバーサルすぎるし、抽象的すぎるし、普通の人は使いたいって思わないじゃないかと素朴に思って、それでもう少しインターフェースを使いやすくして、ユニバーサルなものではなくもう少し用途を限定して、ってやるとうまく行くんじゃないかと軽いノリでやってみたら、意外と使われるってことがわかって…。

それで、アレグザンダーのことをいろいろ調べていると、60年代後半のアメリカで増えてきたマルチサービスセンターっていう多様な用途を受け入れる文化施設みたいなものが当時アメリカでは増え始めていて、そうしたビルディングタイプをつくるためのパタンランゲージが一冊の冊子になっていることを知り、それって意外とレシピっぽいじゃないか!って感動しました。マルチサービスセンターって言うのは、タイポロジーって言うよりかは、プログラムですが。だから、方言の話に戻るけど、パタンランゲージそのものがある種の方言をまとめる形式だったんじゃないかとも言えると思います。

 

点在する木賃アパートを使った戦略的な地域計画 [モクチン企画/モクチンレシピ]

 

モクチンレシピのウェブサイト画面

 

それは、地域ごと、例えば東京とか新潟とかの場所でも、同じモクチンレシピが使われることがあるということですか?

 

使われていますよ実際に。そうはいっても、木賃アパートも地域差があるので、レシピも地域によって使われるものと使われないものがありますね。なので地域差に関してはまだ実験中です。首都圏内だとだいたいみんな同じだから、同じようにレシピを同じように使ってもらっているという状況ですね。

 

アレグザンダーと違ってモクチンではパタンが増えていくことが面白いですよね。例えば、青森のもので特殊な庇があるとして、それを九州の人が見て意外と使えるかもみたいなことが起きると面白いなと思います。

 

アレグザンダーはパタンが自分の思い通りに使われないと怒ったと思うんですよ。難波さんも少し言ってましたけど。最近モクチンレシピに「レシピを使って改修した事例ができたら撮影して投稿出来る」という機能をつくったんですけど、それを見ると「あれ、こういうアイデアじゃなかったんだけどな」って思うことがあるんですけど、それがとても面白いです。いろいろなかたちでフィードバックをもらえます。僕ら考えていた以上に面白い使われ方をしていたり、もちろん全然うまくいっていない逆のケースもあったりします。レシピは今60個くらいあるんですけど、最初の方に出たレシピもどんどんそうした現場からのフィードバックを受けて更新されています。実際使われている状況と対話しながら、アイデア自体がどんどん進化しているんです。

でも、パタンランゲージをもとに語ることで、同時にこういう会話も出来るわけじゃないですか。レシピだけ始めてたら、こんなに建築系の人から興味もってもらえたかはわからないですよね。ふつうに不動産業界にちょっとアイデア提供しているくらいかも知れない。そういう思想とかとセットで語ることで、建築系のコミュニティの仲間に入れてもらえて、批評を受けられるというのはいいことです。他にはないですよ。建築界は思想とか理論とかバックボーンがあって知性がありますよね。

 

神明町の戸建て、モクチンレシピ・改修事例

 

最後に学生に対して一言お願いします。

 

ぼくはY-GSAが掲げている「建築をつくることは未来をつくることである」というフレーズとてもすきで、Y-GSAの学生はそういう意味で、建築の最前線にどんどん挑戦し新しいことをどんどんやっていていく責務があると僕は勝手に思っています。建築の世界をリードしていくんだ!社会を自分たちの力でつくっていくんだ!という気概を持って活躍してほしと思っています。そうしたなかで、新しいことをはじめたり挑戦したりすることってとても孤独な作業だと思うんです。壁にぶちあたることがたくさんあると思います。今、進んでいる方向が正しいのかどうか不安になることがたくさんあると思います。そうしたときに意外と学生のときに出会った一冊の本が自分の支えになってくれたりします。今回の「横浜都市学」が少しでもそのキッカケになればいいと思いますし、今回出会わなかったとしても、いつかそうした運命の一冊に出会えるといいですよね。

 

ありがとうございました。

インタビュー:板谷優志(M1)、渡邊海都(M1)、尾崎純一(B4)

撮影:尾崎純一(B4)


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