住宅訪問記録「深大寺の2塔」


 

住宅の実際 -深大寺の2塔-

 

はじめに:企画について

 

普段、建築を学ぼうとする時に私たちは様々な情報を参照している。
ある時は建築雑誌に掲載された図面からその寸法を知り、さらには一緒に載せられた竣工写真と比較しながらそれによってできる空間を理解しようとする。またある時は内覧会などにより一時的に滞在することで建築が竣工した瞬間の状態から多くのことを学ぶ機会があったりする。

 

しかし建築の目指すところには、「モノ」自体の構築ではなく、
「モノ」を構築することを通じて「出来事」を構想するという側面を多分に含んでいる。

 

そこで、いつも建築を考えるときの参照を見つめ直してみると、圧倒的に「モノ」自体がフォーカスされている事がほとんどであることに気づく。あるいはもはや建築の「モノ」自体とは無関係に出来事そのものがピックアップされている事は建築の専門メディアに限らず見受けられる。
つまり、竣工のそのあとの「モノ」と「出来事」の関係を知る機会は極めて少ないし、こと住宅に関しては尚更だ。

 

そのような経緯で、この「住宅の実際」なる企画を提示することとなった。
第一回として、コンマによる「深大寺の2塔」(http://comma-design.org/archives/323)を訪れ、そこで起きていた竣工後も続く建築の実際を見させていただいた。

 

 

住み手であるUさんの生き方(土地や生業、家族などの)が建築の在り方にどう関わっているか。
本記事では着目するスケールをすこしづつ変えながら理解を進めていこうと思う。

 

 

 

深大寺の界隈

 

『江戸名所図会 3巻』より「深大寺蕎麦」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深大寺という町は古く1200年の歴史を持ち、東京では浅草寺に次ぐ古い寺であると町の人は口々に言う。

 

そんな歴史が堆積した町の魅力ゆえか、深大寺に住む人の多くは一度町を出ても、いつかは町に戻ってくる人が多いという。
それは他所から来た僕のような者には簡単にはわからない、友人知人や親類による密接な関係が色濃く残る、見えないけれど確かな町の全体像を生み出しているようだ。

 

 

 

 

インタビューしたUさんも、親類が多くこの周辺に住んでいるし、自身も妹さんとお父さんとともにこの家に住んでいる。インタビュー後に連れて行ってもらった蕎麦屋もUさんの親戚が営んでおり、かつてはそこでアルバイトをしていたそうだ。また結婚をしてから街に帰ってくる友人もいるという

 

Uさんにとって「深大寺」とは土地の名称であることを超えて、
人と人の関係をつくりだすチームの様なものなのかもしれない。

 

 

Uさんの生業話

 

都内の鉄道会社に勤務しているUさんは、軌道や駅舎といった巨大なインフラから空調やトイレといった施設まで、多岐にわたる保守・維持管理を行う仕事をしている。

 

「施設の保守・維持管理」としてくくると何か縦割り的な状況で、施設=建物のようなものだけを相手にするというように想像していたが、話を聞いて行くとその実態は土木の大きさが作り出す、様々な困難を同時に扱う全仕事であることが伺えた。

 

インタビューの中で出た例として、道路を占用すべく道路法32条の手続きを行ったり、近隣企業や利用者のエレベーター停止の告知や、社内での他課との調整といったことをしている。また、工事で利用者に迷惑が掛からないように、私有地の一部を使わせてもらい迂回動線を確保したりと一つの工事をおこなうにも様々な手続き、調整がある。といった具合だ。

土木と言うと、なんだかどんと構えて安全で安心な構造物のようだが、到底全貌が一望できない土木特有の巨大なスケールを、同時多発的に起きる小さな問題から捉えていく、途方も無い新陳代謝によって支えられているものなのだ。

 

 
 

2塔に住む距離感

 

竣工後一年を経過した現在、2塔のうち東塔にはUさん家族(夫婦+子供2人)西塔にはUさんの妹さん、Uさんのお父さんが住まわれていて、所謂3世帯住宅といった状態である。

 

現状としては、七つ下の妹さんは夜間勤務の仕事をしているし、歳も離れ異性でもあるからあまり普段は関わることもない。お父さんともクリスマスなどのイベント以外ではそこまで生活を共にしているわけではない。しかしUさんの娘さんたちは、「じーじと食べる」と朝はお盆を持って隣の塔へ行きUさんのお父さんと朝食を共にすることが多いようだ。

 

逆にUさんの奥さんとお父さんは付かず離れずの関係で生活していけるという。
何か、単に家族で住んでいるのではなく、個々が自由に関係を持って集まって住んでいる。単なる多世帯住宅というよりも、何か深大寺の密な血縁的・地縁的な住み方の縮図のように感じた。

Uさんに家の使い方について聞いてみると、ここは今はおもちゃ部屋になっている、ここは将来的には夫婦の部屋になっちゃうんじゃないかな、とか、みんないなくなって妹さんが天下とって全部使ったり(笑)、姉妹で間仕切りが欲しいとなったら作ればいい、というように、住み始めてなおどのように家を使って行くかわからないし、変わって行くことを常に考えている姿勢がうかがえた。

 

特殊な間取りが使い方を限定するのではなく、変化を許容する緩やかな家族像に向かって設計されているが故の楽しさをみることができた。

 

 
  

全体を把握する

 

 

住宅を設計している中でのUさんの強い考え方として、「家を把握したい」ということが挙げられる。と設計者は語った。
家のどこに柱梁があって、骨格があるのかというのを住みながら把握したい、という事のようである。

 

「建築家が家が建てました、じゃあそのあとの維持管理って施主がやるんですよね。
そうなると10年とか20年経った時にこれをやるにはこれを外さなくちゃ、
これを交換しなくちゃ。となった時にモノがない、という話になる。」とUさんは語る。

 

どこでもビスが打てるように床も壁もラワンで作られたり、外壁も自身で交換できる様ウエスタンレッドシダーの下見板張りとなっている。
Uさん曰く、「全部ホームセンターで買える物で作ってもらった!」と。
広く流通している材で全体を組み立てることで、専門家に頼んだり、特注としなくては家に手を加えられない状態を作りたくないという。

 

さらには一つ一つの要素が独立していることの重要性を挙げ、一つがダメになった時に相互に影響し合わないようにつくることで、何か住宅の維持管理の営みが自分の手の届く中にあり続けることを話していただいた。

 

同じものに見えて実は少しずつ入れ替わっている新陳代謝のように、
どしりと構えているようで実は長い時間をかけて少しずつ変化していく建築。

その為には専門的な人にしか扱えないようなものでも、複雑な取扱説明書をつくるのでもなく、
誰もがそのつくりかたや手の加え方を、身体でパッと把握できるような開かれた「モノ」の集め方を考えなくてはいけない。

 

 

小さな増築について

 

建築の全体の仕組みを住み手が把握できることで、そこに容易に手を加えることのできる感覚が生まれている。

そこでは、住み方が変わることから、新しい家具を置くことや、庭先を使いやすくするためのDIY的な小さな増築、
痛んでダメになった建築の部分を交換したりすることがどこまでも同じような感覚の中にあるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考え方から全体像を把握する

 

インタビューを通じて、成長し変化する深大寺の2を見た。

僕たちを取り巻く様々な環境、例えばまち、家族、生業などはひと一人に対して大変大きい。
そこにあるであろう全体像など俯瞰的に見ることなどできない。

しかしそれぞれの全体をかたちづくる「考え方」を把握することで、
大きく曖昧な環境を捉えることができる。

 

建築は単に「空間」を扱うだけではなく、「領域」を扱い関与するものであるのだ。

 

 

 

文:石井 優希, 水野泰輔, 鈴木菜摘

 

建物概要

建物名称/ 深大寺の2塔
所在地/ 東京都調布市
主要用途/ 専用住宅
家族構成/ 夫婦+子ども2人、父、妹

設計/コンマ
担当/ 神田 篤宏、佐野 もも

構造設計/ 樅建築事務所
担当/ 田尾 玄秀

構造・構法−−−−−−−−−−−−−−−−−−
主体構造・構法 木造在来工法
基礎 ベタ基礎

規模−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
階数 地上3階
軒高 6,780mm
最高の高さ 8,010mm
敷地面積 204.44m 2
建築面積 56.48m 2 (建蔽率30%許容30%)
延床面積 121.17m 2 (容積率60%許容60%)

1階 50.74m 2
2階 45.59m 2
3階 24.84m 2

工程−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
設計期間 2014年7月~2015年9月
工事期間 2015年9月~2016年8月

敷地条件−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
地域地区 第1種低層住居専用地域
防火指定 法22条地域
高度地区 第1種高度地区
その他の条件 都市計画公園、深大寺通り周辺街づくり協定、景観形成重点地区

 

 

 

 


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