今月初頭、事務所で長年手掛けていたサンチアゴでのプロジェクト、ユンガイのパフォーミングアーツセンター(Centro NAVE)がオープニングを迎えた。このプロジェクトは僕がチリに来たときには既にほぼ図面が引き終わっていたので、厳密に設計段階から関わっていたとは言えないが、チリに来て初めて模型を作ったプロジェクトであり、初めて現場に連れて来てもらったり、上棟式に招かれたりと個人的にはとても思い入れのあるプロジェクトであった。そしてスミルハンにしても珍しく都市的なプロジェクトであるとも言える。
敷地のあるユンガイ地区はサンチアゴのダウンタウン西部に位置し、19世紀初頭にサンチアゴで初めて計画的に整備されたエリアである。かつては中産から上流階級の人々が暮らし、現在でも当時のお屋敷などが街中に見受けられる。現在はペルーやハイチ、コロンビアといった国々からの移民が多く住みつき、このエリアに新たな文化の融合をもたらしている。
©Smiljan Radic Arquitecto
プロジェクトの概要を一言で言えば古い集合住宅を相当に改修するというものだ。オリジナルの集合住宅はコロニアル調の細工がちりばめられた築100年の古いもので市の歴史遺産にも指定されている。約~mの街区がそのままボリュームとして立ち上がり、それを4分割されて各々8個の住宅が充填されていた(計32戸)。2006年の火事、そして2010年の大地震によって大きなダメージを受け、改修計画が持ち上がった。ただし歴史遺産条例により、改修の際もオリジナルのファサードは保持・修復する必要があった。そこでかろうじて残ったファサードは残し、さらに痛んだ内部をクリアランスし、そこに新たなプログラムを補填してゆく。ただしシアターに改築するのはそのうち1/4、楽屋やサービススペースに1/4、1/4は崩壊のまま放置され、さらに1/4は改修前と同じように人々が住み続けているというなんともヘンテコな状況である。
©Smiljan Radic Arquitecto
以下は建築家によるテキスト
このパフォーミングアーツシアターのプロジェクトはヴォイド空間へのオペレーションの提案である。行政の歴史建造物の法規を満たしつつも、現在の痛ましい状況を回復させるというものだ。ファサードはプロジェクトの始まった2006年から地震のあった2010年の間に残された唯一のストラクチャであった。内部に残された痛んだ8住戸を取り除き、土地を空白にする。残されたファサードは全体を統一するように一つ一つのディテールに至るまでオリジナルを復元し、都市にとってある種親密な佇まいに変身させる。
<オリジナルファサード>
<親密なファサード>
ここでは都市は内包された空隙に存在する。
<model making : Alejandro Lüer, ©Gonzalo Puga>
<model making : Alejandro Lüer, ©Gonzalo Puga>
内包されたスペクタクルを匿う(かくまう)緞帳(どんちょう)の背後に構造的エレメントを散りばめる。それらのわずかなエレメントが地上に接地している。エレベーター、階段、スタンド席を支える壁。パブリックな回廊は中央の大梁によって吊るされており、イベント用のサーカステントが設置される屋上へとつながっている。
©Smiljan Radic Arquitecto
全ては屋上から始まっているようだ。まずサーカステントは想像しうる限り最初のスペクタクルであり、最も原始的で質素なエレメントである。劇場の厳かな暗闇とは対立する、自然とはかけ離れた奇妙なオブジェクトのように感じるだろう。私はこの地区の上空にささやかな悦びを置いてみることにする。
以下はここ3年で撮りためたプロジェクトの記録だ。
<回廊へと続く階段>
<エレベーターボックス>
<吊られた回廊>
<舞台空間>
<オリジナルファサード>
<屋上へと続く階段>
<屋上>
<テント>
最初に訪れたときは本当に朽ちた建物といった感じで、言葉もほとんど理解できていなかったこともあり、なぜわざわざ外側だけ残して内側に作るのか?というかこのサーカステントは一体何なんだ??という疑問を胸に秘めながら模型を作ったり、現場の実測に刈り出されたりしたものだ。現場に足を運ぶたびに、その様子は囲われた都市の空白に粛々と質の良い廃墟をこしらえているような奇妙な感覚を覚えた。そして3年と少し。彼のそばで仕事をするようになって段々と彼の思想や意図を理解できるようになってきたと思う。内包するスペクタクル、隠遁すること、黒について。この劇場空間は彼のそうした思想が都市の時間の中に埋め込まれた好例のひとつになると確信した。
Yuji Harada