コリコ・レイク・ハウス


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先日とある建築雑誌社の取材にかこつけて、コリコ・レイク・ハウスを訪れた。この住宅は事務所で担当した住宅で初めて竣工まで辿り着いたものであり、かつ担当した物件ではじめて恒久的に建つものである。ただし場所が場所なだけにこれまでなかなか現場を訪れる機会に恵まれず、今回ようやく(半ば強引に)その姿を拝むことが出来た。

この住宅は表題の通り、サンチアゴから南に700km下ったところにあるコリコ湖の麓に位置する。サンチアゴを早朝に出発し、LAN航空の小型ジェット機で南へ飛ぶことおよそ1時間。テムコの空港は必要最低限のカウンターと小さな民芸土産物屋を備えた、いかにも地方都市空港らしい佇まいをしていた。そこからさらにレンタカーで目的のコリコ湖を目指す。

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車を走らせるとすぐにのどかな風景が眼前に広がった。この辺りまで来るとサンチアゴと比べても植生が大きく異なり、ちょうど北海道のような牧草地と森林が織り成す雄大な景色が連続する。この時期はちょうど春と夏の間といった具合で、木々は瑞々しい緑をまとっていた。

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途中いくつか小さな町を通り抜け、やがて「Lago Colico」の緑色の看板が目に入る。大通りから舗装されていない脇道に入り、そしてコンドミニアムの敷地のゲートを通り抜けた。アプローチの敷石を整備していた地元のコンストラクターの案内を受けエントランスへと向かう階段を下る。水平に伸びる屋根と垂直にそびえる煙突の背後にコリコ湖の水面がキラキラと輝く。

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確かこの住宅のオフィシャルな名前は「木の家」だ。なので文字通りこの住宅の大部分は木で出来ており、部分的にコンクリートや鉄を用いている。チリは上記のように南に行けば行くほど自然が豊かになってゆくので、必然的に建物も木造のものが多くなってくる。なので南部の大工は腕がいい、というのはどうやらチリでは一般的な様である。
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©Smiljan Radic Arquitecto
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©Smiljan Radic Arquitecto
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敷地は湖に向かう緑豊かな傾斜地である。そこに長さ60mの木のボリュームが浮遊するように突き出し、それをタテヨコナナメに入り組んだストラクチャが支えている。

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©Smiljan Radic Arquitecto

 
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ストラクチャの基本的なモジュールは140x140mmの断面のラミネート材で構成されており、それらは一本残らず黒く塗られてしまっている。接地する部分はH型の鋼材に置き換えられ、そして等しく黒い。彼の「黒」に対する思い入れは年々深まっているようである。

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インテリアもまた等しく黒い。

構成そのものは極シンプルで、中に入るとまず静寂したトーンのリビングが広がり、その奥に雄大なコリコ湖の借景を獲得している。

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そしてその奥に3つの寝室がズラリと並び、さらに一番奥が主寝室となっている。それらを一直線に赤いフェルトカーテンのの廊下が貫く。初夏の緑は真新しい空気ときらめく光をもたらし、また冬になると枝葉の間に水面のゆらめきを垣間見ることが出来るだろう。

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少し離れた所にある来客用の小さな家もほぼ完成している。

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母屋に比べるとやや堅牢な印象を与えるが、それでも基本的ストラクチャやマテリアル(主に木と鉄とコンクリートのせめぎ合い)は共有されている。

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やがて日が暮れると徐々にその室内の闇に空や湖が吸い込まれてゆく。
夜は十分に暗い。月は雲に隠れて見えない。外はとても静かだ。キリリと冷えた静けさだ。こんなに静かな場所に来るのは随分と久しぶりだった。少し本を読んでから温かい布団にくるまって朝日が昇るまで深く眠った。

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日本において今日的な建築が人あるいは社会と繋がるためのもの(少なくとも日本から離れているとそう見える)として求められているのだとすれば、チリにおいて建築に求められるそれは人あるいは社会からの隔絶なのかもしれない。僕はチリのそういうところが気に入っている。

またチリらしい場所でチリらしい住宅ができた。
そういうプロジェクトに携わることができてよかった。

とてもよかった。

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fotografia : Yuji Harada


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