さる11月1日、国立台中オペラハウスは1Fロビー部分のみ、限定的にではありますが一般市民への開放を始めました。工事現場が公共空間へと変わった瞬間、それまでヘルメットを被った人しか立ち入れなかった場所に様々な格好をした人々、とくに子供たちがはしゃいでいるのを目にしたときは不覚にも目頭が熱くなるのを禁じえませんでした。
とはいえ、未施工ゾーンは仕事が山ほど残っており、施工済みの箇所にしても設計図、あるいは承認施工図どおりにつくられていないところだらけ。実態に対してあまりにも早急なお披露目や設計をなかば無視して進めていくやり方には我々もかなりの労力を費やし抵抗してきました。が、結局は泣き寝入りを強いられているというのが実情です。
その大きな原因の一つがこれ。
選挙です。
オペラハウスの完成も公約の一つに掲げられている以上是が非でも面子を守らなくてはならない。事情はよくわかるのですが、すべてがすべて工期優先という価値観の押付けはなかなかツライものがあります。
台湾は政治が非常に強い国です。議員どうしが常軌を逸した剣幕で罵り合っている場面は日本のテレビでもしばしば放映されるので、みなさんもご覧になったことがあるかもしれません。とにかく熱い。若い人や学生もみな支持政党や思想をしっかり持ち、大きな物語にたいして全幅の信頼を置いているといったかんじ。デモが長引いている香港もそれに近い感覚なのでしょう。そして、建築や都市計画の力がまだまだ信じられている。だからこそ我々の計画も存在しえたのだし、それはそれですばらしい側面もあります。建築や都市が世の中を変える可能性をわりと多くの市民が本気で信じている。このこと自体は我々建築家にとって非常に大きな勇気だし、機会が増えるのも素直に感謝したい。ただし、いったん政治に摺り寄ろうものなら、私たちは徹底的に骨抜きにされてしまうかもしれない。常にこの危険と隣りあわせだということには自覚的であり続けなくてはならないのです。
台湾は今も建設ラッシュが止まりません。日本人をはじめ多くの外国人建築家が設計者として登用され、これからもその機会は少なくないと予想されます。そのときに必要なのは、道具として利用されつつも建築に対するモラルはけっして譲らないという断固たる態度。みなさん、そうとうな覚悟をもって臨みましょう。