台湾でAirbnbに泊まってみた。
すでに去年のこととなってしまいましたが、とあるお誘いを受け宜蘭(昨年ギャラ間に出展し、日本でも良く知られるようになったフィールドオフィス・アーキテクツの本拠地でもあります)の羅東という土地に行ってまいりました。羅東はかつて材木産業などで栄えた地方都市。今では羅東夜市という台湾最大級の夜市で有名です。
台北市内からは高速バスで1時間程度の近場ですが、この日の終わりは遅くなることが目にみえていたため、近くに宿を確保することにしていました。便利な世の中になったもので、かなりマイナーな都市であってもネットを通じて簡単に予約ができます。今回はAgodaで清潔そうな、そしてリーズナブルなホテルをサクッと選択。初めて行く場所であっても地図を片手に予習して、などというのも今は昔。送られてきた領収書にはグーグルマップがリンクされていて、もはや住所さえ入力する必要もありません。
これでは旅情も何もあったものじゃないなどと悠長なことを考えていたのもつかの間、いざ近くまではたどり着いたものの目的のホテルが見つからない。スマホの画面上では何度も通過しているはずだというのにエントランスもサインらしきものも一切なし。さすがに困り果て、半ば負けたような気もちでホテルに電話をしてみたところ「今から行きます。そこで待っていて。」とのこと。
言われたとおりその場で待つこと数分。現れたのは何と、見た目完全高校生の女の子ではありませんか!これはいったいどういうことなのか、頭の中で整理がつかないまま彼女について歩いていくと、どうやらさきほど幾度となく通り過ぎたビルの中へと向かっていく。どう見ても完全にフツーの家。
と、ここに来てようやくあるおもいが頭をよぎったのです。ひょっとしてこれが噂のAirbnb?!
結論から言うと、ここは正式な意味でのAirbnbではありませんでした。非常にグレー。そもそもAirbnb自体が法的にものすごくグレーなわけですが、Airbnbに加入せずにAirbnb的なシステムを踏襲しているという意味で二重にグレー。
いわゆる集合住宅の専有部分のエントランスドアを開けると最初にロビーに通されます。ロビーといってもマンション一室のリビング程度。そこで宿帳に記入をし、個室とエントランス、そしてマンション(中国語では公寓といい、どちらかというと団地に近い感じ)全体の鍵をもらい、夜間の騒音やゴミのルールなど一通りの説明を受けたらチェックイン完了。LINEを交換し(冷静に考えれば個人情報にたいしてずいぶんと無防備なわけだが、友だちリストに唯一の女子高生が加わったことを喜ばしいとおもう自分がいたことをここで告白しておかなければならない)、何かあればこちらまでと言い残して彼女は去っていきました。チェックアウトの際にも人に直接会う必要は一切なく、合鍵を指定された場所に放り込んだらそれでおしまいです。
さて、客室はというと、けっして高級感のある内装ではないものの、シンプルかつ清潔でなかなか好ましい。廊下の床仕上がコンクリートに透明アクリルのようにみえ長坂常風!と驚いたが、ようくみると透明の塩ビシートが張付いているだけであった。
もっとも興味深かったのは窓からの風景。街路から奥まった場所、パリならさながら中庭となるべきスペースに低層の住宅がぎっしり並んでいる。並んでいるというよりはむしろ絡み合っているという感じで、長屋的に隣の構造体を借りたり、屋根を足がかりにしたりして極めて相互依存性の高い建ちかたをしている。これは街区に分け入らない限り、さらに俯瞰でみないとわからない。長年台湾で生活してきた私にとっても非常に新鮮な風景でした。
こうしたアジアの路地裏的楽しさというのは、建築や都市に興味がある我々にとってはもちろんなじみの深い概念なのだけれど、最近とくに一般の人々の間で急速に浸透しているような気がします。日本に来る外国人観光客もこぞって我々の日常生活領域を探索している。インターネットでは提供できないリアルな体験。ありきたりの表現ですが、そういうことなのかもしれません。そういう意味では今回のAirbnbや民泊、解決すべき諸問題はあるにせよ積極的に推進するべき制度だとあらためて認識しました。
みなさんも、まずは高級ホテルのメモ帳で部屋のプランを描き写し、一泊ぐらいはAirbnbというのも良いのではないでしょうか。