寒い日が続いています。一日の気温がだいたいマイナス15度からマイナス5度のあいだで、今週の木曜日には最低気温マイナス23度と予報が出ています!
今回もギャラリーがらみの話になります。欧州文化首都の日本側から支援している団体EU・ジャパンフェスト日本委員会が1999年から実行している写真展の13回目、「日本に向けられたヨーロッパ人の眼・ジャパントゥデイvol.13」がタリンのギャラリーで開催されていました。このプロジェクトでは、2010年12月にフィンランドのカッレ・カタイラ(Kalle Kataila, 1978)が、そして2011年7月にエストニアのクリスタ・ムルデル(Krista Mölder, 1972)が秋田県を訪れて撮影を行いました。クロージングイベントの一環として催されたアーティストトークにゲストとして呼ばれてきました。
EU・ジャパンフェスト日本委員会のウェブに、写真展の内容や写真家自身のプロフィールについて詳しく紹介されているのでご覧ください。リンク
この写真展は「毎年ヨーロッパで活躍する写真家を招聘し、「現代の人間と暮らし」というテーマで日本の各自治体の姿を記録、そして作品を後世に残すものであります。この作品群を通して、私たち日本人が「見過ごしてきた日常」に眼を向けること、またヨーロッパの人々にとって未だに遠い存在である極東・日本の存在を身近に感じ、日本に対しての理解が深まる機会となることを期待しております。
日本各地で撮影された作品は、撮影の翌年度に写真集にまとめられ、また日欧各都市にて写真展が開催されます。巡回をおえた額装作品は撮影地となった自治体へ寄贈され、以降、その地の文化遺産として後世に託されます」という趣旨で開催されているとのことです。残念ながら私の出身地富山県はまだ取り上げられていません。
さて、このアーティストトークは旧市街にある Temnikova & Kasela Galleryで開かれ、写真家のクリスタが秋田で聞き、発見した日本の空間、時間にたいするコンセプト「間」について広く話したいと考え、日本文化に詳しい大学教授アラリ・アリック(Alari
Allik)と私が呼ばれていました。
クリスタが秋田に着いたのは雪の降る12月、外の風景はもうあきらめ内部空間に集中して撮ったと話していました。たまたま入ったカフェで出会った現地の人に自分の撮った写真を見せていたところ、これは「間」だよといわれ、今まで自分が気にかけ、手掛けていたテーマがはっきりしたそうです。何枚かの写真は秋田の湯沢にのこる建築家白井晟一(1905-1983)の建物に滞在したときのもの。旧雄勝町役場(現・湯沢市役所雄勝支所、1956)や稲住温泉浮雲離れ(1963)(参考リンク)等に訪れていました。
私は白井晟一の建物では、ひとつの世界観を包含するような内部空間をもつ渋谷区立松濤美術館(1980)と台東区にある、屋根と壁のプロポーションが美しい善照寺本堂(1958)しか見に行ったことがないのですが、今度帰ったら是非もう少し見に行きたいと思います。
ゲストに呼ばれていたアラリは本当に日本の文化や哲学に詳しく、丁寧に説明してくれるのでみんな聞き入ってしまいました。
ひとつ面白かったのは、日本人はどうして他人と同じ写真をとりたがるのかという質問にたいして、アラルは、日本人には富嶽三十六景等に代表されるように、過去生きてきた人たちが選び語り継がれてきた風景があり、それを見るべき場所から見ることは過去に対する尊敬がある。わざわざ自分で新しく探すより、今までに洗練されてきた見方を楽しむのが贅沢であるとする考えがあると述べていました。それはそうかも知れませんね。
何気ない風景を切り取った二人の写真は我々に確かにはっとさせるものを提供してくれるとともに、それをみるヨーロッパ人がユニバーサルな写真というメディアを通じて自分たちに共通するもの、異なるものを体験することができているわけです。
風景やランドスケープを中心とするカッレの写真に現れる後ろ向きの人々をみながら、人口と自然の対比が乾いたタッチで描写されてることや、人々がいてこそランドスケープになりうるということを考えさせられます。
via Temnikova & Kasela Gallery
それに対し、クリスタの写真はテーマが抽象的な「間」ということもあり、小さいフォーマットの写真では空間に入り込み、その空間の質まで体感するのは難しいのですが、別会場の大きなギャラリーのほうでは、設置の仕方がよく分かりやすくなっていました。空間のひだや、自分を含めた上で発生する新しい「間」を再発見できます。
こちらはTemnikova& Kasela Galleryのもうひとつの場所で、1950年代に建てられてアパートのボイラー室だったところだそうです。かっこいい使われ方ですね。