前回につづけてPaper
Object Festivalについての報告です。
6月27日のオープニングにあわせるべく、いくつかのインスタレーションの設営は同時に計画されており、私のインスタレーションの準備がはじまる21日にあわせて現地入りしました。雨続きの天候で、これだけが心配でした。
下地の設営は始まっており、ダンボールからできているモジュールを試しにひとつつけてみましたがあまりよくありません。ステップラーではうまく固定できないことがわかり、ネジで固定することに。工場で折ってもらった、ダンボール2枚重ねのモジュール自体はしっかりとしており、これなら少々の雨にも耐えられるとほっとしました。
23日、24日は夏至の祭りで、設営は一休み。現地のスタッフのひとに連れられて祭りのステージにつれていってもらいました。かぶっているのはオークの葉からできた冠で、男性用。力のシンボルだと聞きました。隣は日本からの参加アーティストの柳井嗣雄さん。新鮮な葉っぱの香りが心地よいです。
女性は花を混ぜた冠。祭りのための特別なパンや香辛料のクミンをいれたチーズをわけてもらいました。とても寒く、夏至の焚き火のありがたみが分かります。エストニアにも夏至の祭りがあるのですが、友人にラトビアはもっとちゃんとやってると聞いていたのは本当でした。
車にも、日本の正月のお飾りのように付いています。
設営再開。
取り付け工事を請け負ってくれたのは、展示などの設営をおもにやっている人たちで、2人一組になって手際よく、取り付けていきます。
工事中に図書館のディレクターと話をする機会があり、前から気になっていた、ソ連時代に建てられたと思われるシリカ・ブリックの建物がどうして19世紀後半っぽい木造の屋根をもっているのかということについて回答をえることができました。
もともとは1880年に木造のサマーハウスとして建てられたものが、1960年に図書館として使われることになったさいに、既存の木造の外壁の外側にシリカ・ブリックを積まれたということでした。確かにちょっと崩れている漆喰の裏側から、木構造が見えます。
話をきいて、私ははっとしました。このインスタレーションは3層目の歴史的なレイヤーを重ねているのだと。木、石、そして紙の順に。コンセプトを作る段階では考えられていなかった、作品を強くする重要な意味が発見できました。
雨やどり
完成!!
写真提供 Inese
Kalniņa
写真提供 Inese
Kalniņa
単純な山形のモジュールの繰り返しが、光と影に彩られ思っていた以上の効果が!既存の建物の不規則な形が生み出す、バラエティーのあるシーン。そして白い紙同士の反射が、いろいろな深さの「白」を作り出しています。
公園の中に位置する図書館のたたずまいをリノベートするインスタレーションになれたのではと思います。
ちょっと長くなってしまったので、空間的な作品で参加したアーティストを手短に紹介します。
こちらは建築家の矢嶋一裕さんの作品。「窓」がテーマです。窓台を延長したような、窓のヴォイドを引き伸ばしたような、ヨーロッパの既存の窓のありかたをちょっとひねったおもしろい提案です。バス通りにも面しており、たくさんの人の目にとまる作品でした。
紙による造形を手がける柳井嗣雄さんの作品。素材感あふれる紙を自作し、木枠に貼り付けて「窓」をつくっています。カフェの窓との間にあたらしい呼応の関係ができていて、外と中をひっくりかえしたような場所ができてました。
加藤かおりさんの作品のひとつ。独自のやりかたで折られた、見ようによっては甲殻類にも屋根の構造体のようにもなる紙のオブジェ。これはパフォーマンスのコスチュームになっていました。
写真提供 水野久美子
ジュエリー・アーティストの水野久美子さんの作品。約7000枚の耐水性をもたせた紙を丹念に折って作られた3次元のキューブの連続体。入り組んだメビウスのようなつながりかたをした「間」が夏の光に生えています。
このほか、ワークショップやレクチャーなどなどが織り交ぜられた3週間のイヴェントでした。詳しくはフェスティバルのウェブサイトからどうぞ。
矢嶋さんと私のレクチャーの案内。(ラトビア語はエストニア語と違いますね。みているだけでは、意味がぜんぜん分かりません)
矢嶋さんのレクチャー。窓と間戸に関して興味深い話を聞きました。
参加者一同での昼食
私はオープニングの2日後に既に現地を離れたのですが、そのあと主催者から興味深い写真が送られてきました。
ほほえましい落書き
オープニングのあとも降っていた雨のために柔らかくなってしまったモジュールがいくつか壊されたと聞きました。モジュールの中にもぐって遊ぶことを見つけた小さい子供たちもいたそうなので、すべてが単なるいたずらだけではないそうなのですが。補修後は晴天にめぐまれ、期間最終日までは壊れたところはなかったと聞きました。
今回で私にとってはインスタレーションは3回目。毎回場所や趣旨が違いますが、そのたびに場所性の読み込みの重要さを感じます。今回は設営中にわかった、歴史のレイヤーに助けられてコンセプトの部分でも納得の行くものになりました。
参加アーティストの専門の分野が違っていても、素材を統一してた今回のフェスティバル。紙を目的として使った人や手段として使った人。もともとは2次元な素材から3次元にもっていっていた人、素材感をつかった人、紙の可能性の広さと深さを考えさせてくれました。
次はどこでインスタレーションやりましょうか?
フェスティバルについては、9月号の「新建築住宅特集」と「商店建築」に、前述の矢嶋さんがレポートします。