海の近く、ジャングルのような緑の中を


高温多湿、なにもかもがざわめくの緑の世界。


渡印したのは、未だ雨期の続く9月初旬。

毎日毎日雨が降る。日本の梅雨とは違って、真夏の夕立みたいな雨がドカドカ降る。唐突に降り出すこの雨に、毎日どこかしらでうたれることが私の日課になった。事務所は雨漏りで、桶やらバケツやらが大活躍している。

 
 
 

ここでの生活は、様々なことがある。興味深いことも、理解に苦しむことも。この瞬間を一生忘れないだろうと、目の前の光景を頭に焼き付ける様な瞬間がすでに幾つかあった。

この国は、世界第11位のGDP(1兆6761億ドル)をだし、世界第2位の人口、12億を越える人間を抱える。その人口の7割は1日2ドル未満で暮らす、貧困層である。日本からフライトでおよそ9時間。時差マイナス3時間半。「国というより大陸である」と言われるここは、連邦共和国制国家、インド共和国。

そんな国の最大の都市、ムンバイからボートで1時間海を横切り、さらにリキシャーで陸を1時間、海を渡れないモンスーンの時期はバスとリキシャーで5時間はかかるナガオンという場所で生活している。初めてのインドをずっとこの地で過ごしている私は、ここ以外のインドを知らない。ただ、一応避暑地らしく、ゲストハウスやホテルが点在している。ムンバイや周辺の小さな町にくらべるとインドにしてはキレイな所であるように思う。
 
 
 
 
 
 
 
海のそばの、ジャングルのような緑の世界。大きすぎる葉を持った狂気的な植物たちと、そこで暮らしをする者たち。

夜、突如一声に吠え出す犬に驚いて、実家で聞く田んぼの蛙の鳴き声を思い出した。「バァァンッ!」と一日に何度か聴こえる単発の爆音は、ヤシなんかの実や葉が落ちた音。「年間、木から落ちるヤシの実に当たって死ぬ人は、サメに襲われて死ぬ人よりも多いんだよ」と教えてもらったが、それに驚けるほどサメは身近な生物ではない。

徒歩10分の通勤路で、白い毛に黒い肌の猿に会った。民家の塀に堂々と座っていて、その威厳ある姿に見惚れてしまった。時折頭上でワサワサやっていたのは貴方なのですね、と。牛はもちろんのこと、イグワナみたいな何かとか、巨大すぎる蛙とか、一般的なリスとか、いろんなものと遭遇する。

停電も日常で、停電に満たない超lowな電力供給という状態は日本では経験したことはない。ファンが可能な限りslowに回る姿は、見ていて不思議な気持ちになる。コンセントが発する火花も怖くはなくなった。

ワークショップ(事務所)にはほとんど室内がない。アーキテクトの部屋はベニヤとモスキートネットで囲われているが、大半はトタン一枚、屋根の下。太陽光とトタンの蓄熱を体感する。しかし、ファンが回ってさえいれば至って快適に過ごせるもので、密閉された空間の必要性もさほど感じない。そんなこんなをガラスの付いていない民家の窓や、塞ぐ気のない穴を見て納得したり、しなかったり。人間も人間で、夜中の2時や3時まで爆音で音楽を流し、踊っている。

 

狂気的な勢いの緑と、そこらじゅうにいる何かしらの動物たちと、歌と踊り好きな人間たちが日本では見られない均衡を保ち、この土地を生きているらしい。

ここに暮らしているという実感はなかなか湧かないが、ここの土地は気に入っている。

仕事の合間、ヤシの木越しに、黄金色の輝きを放つ夕焼け空を見ると、脚と地面がくっついているのかどうか分からなくなる。

Naoko Harada

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