16人目の建築家と16人目の表現者による対話実験
昨年秋からワタリウム美術館で5ヶ月に渡って行われたイベント『15人の建築家と15人の表現者による対話実験』。
このワタリウムのイベントの幻の続編企画として『16人目の建築家と16人目の表現者による対話実験 「伝播する力」原田真宏×小林エリカ』が5月30日にY-GSAの新スタジオパワープラントにて開催されました。
以下対話実験レポートです。
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建築家 原田真宏さん、作家・マンガ家 小林エリカさん、企画・司会を務める建築家藤原徹平さん。
壇上の3人はともに初対面。どことなく緊張感が漂い、お互いの探りあいから対話はスタートする。
小林エリカさんはアフガニスタンが空爆にあった日に知人宅に泊まりに行くというプロジェクト「空爆の日に会いましょう」を皮切りにいくつかの自作について語る。
どの作品にも一貫しているのが時間的、物理的に距離のある繋がりようもない事柄を彼女個人の出来事を通して繋げるという試み。
スクリーンに映し出される「1年前の今日と、68年前の今日」はアンネ・フランクの日記とアンネと同じ年生まれの小林さんのお父さんの日記(戦中、戦後に書かれたもの)と2009年の小林さんの日常がパラレルに記されたたムービー作品。モーツァルト作曲のアイネクライネナハトムジーク(アンネが心の支えとして聞いていた曲)をBGMに淡々とめくられるページは不思議な浮遊感で想像力を68年前のアムステルダムの空へと繋いでくれる。美しくて、悲しくて、懐かしくて、爽やかな作品だ。
続いて原田真宏さんがこれまでの自作について語る。
「明快な幾何学を見つけるところまでが僕の仕事」そう言い切る原田さんの建築にはブレがない。
「Tree house」「Gothic on the Shore」「XXXX house」は極座標、幾何学、合理性といった単純な原理原則から立ち上がる建築の確かさが印象的だ。一方で表面の仕上げ具合や肌理の細やかさを熱く(表面上は極めて冷静でとても丁寧な語り口なのだが)語る原田さんからは明快な枠組みとともに建築の肌触りをもって新しい環境をつくりだそうとする強い意志が感じられる。
それぞれの作品紹介の後、インタラクティブ、歴史、時間といったキーワードで2人の立ち位置を確認していく。
そして司会の藤原さんは目的地に向けてゆっくりと舵を切りはじめる。
「お二人には、直感的にインターナショナルという共通性があると思った」
インターナショナルとは表現の軸足を明確に表明すること、日本というコンテクストを背負わないこと、内からだけでなく外からの視点をもつこと(藤原さんは原田さんを海賊的思想の持ち主と呼ぶ)だとする。なるほど、自然学的な合理性を軸足に空間の枠組から建築の肌触りまで捉える視点も、日記というきわめて個人的な経験を通して今と昔、遠くと近くを繋げる試みも、慣習に乗らない立ち位置から内と外双方向への視点を持つという意味でインターナショナルである。
その後インターナショナル議論は言語性、エスペラント語(*1)(この議論は白熱した)、言葉、建築における時間、表現と社会性の問題へと展開し、各テーマにのびしろを残したまま16回目の対話実験はお開きとなる。
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今回の2人の表現者を通した厚みのある対話を経て、密かにひとつの可能性を感じている。
インターナショナルな視点、つまり社会と個人、ユニバーサルとローカル、抽象と具象の狭間を自由に往復する視点をもつことは、個人が社会を超え、ローカルがユニバーサルを超え、具象が抽象を超えてしまうかもしれないという、とてつもない可能性を。
垣内崇佳(H16修)
(脚注)
*1エスペランド語:ラザロ・ルドヴィコ・ザメンホフが全ての人々のための第2言語として考案した国際補助語。
写真:小泉瑛一(H21卒)