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忠海集学校_中庭
忠海集学校が位置する広島県竹原市忠海町はちょうど岡山と広島の間くらいに位置し、瀬戸内海の中でも島が群集する風光明媚なエリアである。忠海町内東側の二窓(ふたまど)地区は狭い路地が張り巡らされた古くからの漁村集落であり、町のいたるところに海に向かう神社や祠に出会うことができる。敷地の忠海東小学校は2015年に廃校となり、今回東京のIT企業リングローが主催する「おかえり集学校プロジェクト」の一環として再活用されることとなった。
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忠海集学校 / 旧忠海東小学校
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小学校の校庭で開催される二窓の神明祭り。2019年。塔状の神輿高さは20~25m
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二窓の神明祭り_祭のフィナーレで神輿を燃やす
廃校後も校庭では地域伝統の「二窓の神明祭り」が行われており、地域住民とのつながりは深い。祭では高さ20~25mに及ぶ塔状の神輿を地域住民自ら制作し、校庭で担ぎ回し、そして夕暮れと共に神輿を燃やし、祭はフィナーレを迎える。つまりここでは毎年自分たちで神輿を作ることが地域文化として定着しており、そうした地域の「作る文化」にまつわるエトセトラ(材料・工法・維持)を改修のプロセスに組み込むことを考えた。そこで今回の改修工事については地域住民と学生によるワークショップ形式のセルフビルドで進めることとした。
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施工ワークショップは2021年9月、2022年3月、9月、2023年3月の計4回開催
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模型写真_縮尺1:30
既存校舎は昭和末期に建てられた近代的な地上3階建て鉄筋コンクリート造であり、校舎の規模の割にたっぷりとした中庭が設けられているのが特徴である。改修計画は主に1階部分に集約されており、校庭に面している旧職員室は集学校のオフィスやPC・スマホなどの相談室、旧校長室は地域のサロン「わカフェ」や地域ギャラリー「古部屋」として活用される。
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アイソメトリック図
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1階全体平面図
両室とも校庭から中庭への連続を意識したトンネル状の架構で構成され、共に神輿で用いられる真竹を加工して作られている。一方は切りっ放しの竹を格子状に組んだもの、他方は竹を割いてシェルアーチ状に編んだものとし、地域の職人や漁師に加工技術を教わりながら学生と共に制作を進めた。
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1階校庭側 平面図 / 断面図
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神輿からの構法のリサーチ
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二窓の神明祭り_神輿接合部
竹の格子は、切りっ放しの竹を直径4mmのクレモナロープで交点を緊結し、その結び方は「男結び」という神輿を作るときの技術である。男結びそのものは二窓地域特有・伝統というものではなく主に漁で使われるものらしいが、体得するまでには訓練を要する。まずは地域の方に結び方を教えていただき、それを学生が何度か竹の端材で練習し、その後実践を通して男結びを身体化していく。そしてまた新しい学生が来たら今度は学生同士で技術を共有し、結べる人を増やしていく。竹同士を緊結するためには常にテンションをかけながら結ぶ必要があるため、少なくとも2人一組で結びを進める必要がある。そういった意味で作業人工がものをいう工程であり、またバディを組んで作業をするという点でも、この男結びを通して学生同士の親睦は深まったようだ。男結びによる接合はおよそ最終的に1,000箇所に及んだ。
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竹の格子ー校庭・通路・校長室にまたがり、中庭へとつながる
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通路の右壁面は美術作家:山口牧子による木造船の古材を用いたアートワーク
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ワークショップ I期(2021年9月)の風景
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男結び_真竹はΦ70~90mm程度、クレモナロープはΦ4mm
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通路立面図 / 補強ディテール
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ワークショップ II期(2021年9月)の風景
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職員室(オフィス・PC相談室) 東側展開図 / 平面図
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職員室(オフィス・PC相談室) 東側壁面_設備機器の位置にスノコ状の木製家具を挿入
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職員室(オフィス・PC相談室)_家具も小学校既存家具やパレットをリメイク
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職員室(オフィス・PC相談室)_廊下側壁を取り除き、中庭との連続感を生み出す
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職員室(オフィス・PC相談室)
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職員室(オフィス・PC相談室)_竹格子間に合板t:3mmを渡すことで自由な位置に棚を作ることができる。
一方で竹のシェルアーチは、竹を割いてひごにしたものを編んでシェル状に成形していく。この竹アーチに関しては竹原市竹工芸振興協会の若い職人:寺本 光希さんに制作の協力をお願いし、普段の工芸品サイズの竹加工技術を建築的なスケールに拡張することを試みた。まずは合板で型枠を作り、それをガイドにして竹ひごを四ツ目編にし、交点を全数鉄線で緊結した6つの竹シェルパーツを制作し、それらを室内に搬入し後、互いに接合した。
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校長室(わカフェ・古部屋) _竹シェルアーチ図面
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校長室(わカフェ・古部屋) _竹シェルアーチ
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校長室(わカフェ・古部屋)
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校長室(わカフェ・古部屋) _こちらも中庭との連続感を意識した。
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古部屋(地域ギャラリー)_中央にある神明祭の模型は二窓地域の各家庭にも見られる。
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忠海二窓地区で行われていた家船(えぶね)という漁業文化の影響範囲を示す瀬戸内模型
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合板型枠による竹シェルアーチの制作風景 _ 寺本 光希 (竹原市竹工芸振興協会)
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竹シェルアーチの四ツ目編み接合端部のディテール_鉄線で結束し竹ダボで固定
中庭については、既存のレンガ敷きの床に廃タイルを活用したコンクリートブロックを渦巻き状のパターンに埋め込み、上空に漁網のインスタレーションを設置することで、集学校としての新しい中心を中庭空間に生み出すことを試みた。
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中庭 平面図
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中庭_断面図
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中庭_頭上の漁網と床の渦状の廃タイルコンクリートブロック
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中庭_既存樹はケヤキ
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中庭での居場所を作るため、浮きを用いた可動式のイカダベンチを制作
漁網については地元の漁師である小中竜治さんに制作の協力を仰いだ。形状については瀬戸内海で伝統的に行われていた打瀬網のように、底にたまりができるようなものとした。また中庭のけやきの既存樹が季節と共に落葉するため、漁網内に蓄積するであろう葉っぱを排出できるように底部にファスナーを設け、魚の収穫のようなものと見立てた。
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体育館で網の引張具合を調整しながらの制作_小中竜治 (忠海二窓漁師)
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漁網底部のファスナー
床のコンクリートブロックはLIXILの常滑工場で廃棄品を譲っていただき、地域住民とのワークショップでランダムなタイルパターンのブロックを60個制作した。床のレンガは土の上に置いてあるだけであったので、渦巻き状のパターンになるようにレンガをグラインダーで切り刻み、ブロックを埋め込んだ。
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廃タイルを埋め込んだコンクリートブロック
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ワークショップ II期(2022年3月)の中庭レンガ床の掘削風景
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中庭上空からのビュー
今回の改修計画は地域の祭をきっかけとして、設計のデザインはもちろんのこと、建設のプロセスについても、文化・技術・素材といった地域の資源を取り込むことを意識した。その中でも「作る文化」を拡張していくことで、文化の発信、技術の発見、住民との交流、あるいは若者を集落に呼び込む等、ものづくりに付随した様々な効果が見受けられた。今後もそうした手工藝的な建設による建築・まちづくりの可能性を模索してゆきたい。
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ワークショップ II期(2022年3月)の風景
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ワークショップ III期(2022年9月)の風景
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ワークショップ IV期(2023年3月)の風景
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ワークショップ IV期(2023年3月)の風景
最後に忠海集学校及び、忠海ワークショップの一連の記録をご覧いただきたい。
忠海集学校・忠海ワークショップ / Tadanoumi School + Workshop
設計 建築 原田雄次建築工藝 / studio yujiharada
設計監修 スギウラ・アーキテクツ / 杉浦友哉
構造 佐藤淳構造設計事務所 / 佐藤淳
設備 原田雄次建築工藝
施工 原田雄次建築工藝 / 学生有志 / 西川建材
期間:2021年9月/2022年3月/2022年9月/2023年3月
所在地 広島県竹原市忠海東町5丁目19-1
主要用途 事務所、集会所
事業主体:リングロー株式会社
施工/制作協力 ( 敬省略 )
地域コーディネート:新本直登
中庭漁網:小中 竜二
校長室竹アーチ:寺本 光希(竹原市竹工芸振興協会)
通路舟板アート:山口 牧子
忠海地域の方 :北嵐 昭吏、小中 竜二 、新本 寿美枝、山崎 進
リングロー株式会社 :瀧澤 優、井柳 隼也、松永 航、中瀬 寧々、野村 奈弥
忠海集学校 : 宮迫 綾、信重 初音、脇本まり
学生 :石川 泰成、藤澤 太郎、河野 奏太、研谷 航輝、平田 雄基、長岡 凌太、寺澤 慶、松本 瑶 ( 横浜国立大学 )、城本 大暉、田中 透弥、佐藤 峰里、篠田 竜之介、齋藤 翔太 ( 広島大学 )、田中 碧衣、坂野 弘江、山本 樹、宮崎 響介、小田川 裕士、坂下舞羽、川本乃永、藤生光樹、戸谷 開 ( 近畿大学 )、山﨑 柊茉 ( 香川大学 )、二重谷 光輝、竹添 慧史、原 颯太、亀田朋樹、山田大翔、内藤遼太、宇川陽樹、植岡丈喜、田村 真理彩、光平 七海、桑野 紗羽、竹野 理咲、森 楓花、中村友香、小田桃奈、竹沢まな桜、村上涼葉、住木ヒカリ、山根仁、山田大翔、生野奏 ( 呉工業高等専門学校 )
社会人 :堀 雄太、盛田 浩一
写真:原田雄次