吉原賞公開審査


 

<中略> 

最後10票を集めた河野さん。これはかなりいろんな専門性を持った方々から幅広く推されている感じです。藤岡先生いかがでしょうか?

藤岡 はい。自分の街、自分の住んでいる街を取り上げているってことで、すごくプレゼンテーションも、説得力とか伝わってくるものがありましたし、何より知っているところだから、内側からプログラムを考えられているっていうのが良かったとい思いました。で、レジュメとか見ても参考文献とか見ても、すごく時間軸に興味を持っているんだなぁというふうに思いましたし、緩やかに町が変化していくっていうそういう時間軸上の建築のあり方を考えようとしているだなっていうところにも好感が持てました。ちょっとその提案が少し平面的かなぁっていうのも若干物足りなさとしてはあって、平面に着目していたと思うんですが、もう一方で坂とかそういうテーマは住宅地の問題としてはあって、塀を開いたときに坂がどのようにして街の中に現れてくるかっていうのを、そういうのをもう少し身体スケールで発見できると、それぞれ家と道とか、家と道の有機的なあり方とか、もう少し相互に街が家に入り込む、家が街に染み出すとか、もうちょっと立体的に考えられたのかなぁというのがありましたけれども、でも、最初述べたように内側から考えられているっていうそういうところがよかったのかなと思います。以上です。

藤原 ありがとうございます。守田先生どうでしょうか?

守田 はい。まず図面表現とかも非常に丁寧で評価できるなと思ったんですけども、一番評価できたのは袋小路っていうのに着目した点かなと思いました。で、こうした均等な郊外住宅地の再生とかでコミュニティが復活とか強化とかが重要だ、という場所でみんないろんなアプローチをしたりプログラムの中で自由に入れる空間を作りましたっていうのをよくやると思うんだけど、それって実際どうなの?本当にみんなが入れる空間になるの?って、誰でもって言っちゃうと逆に誰も使わないって言える問題って、みんな気づいて分かってはいるはずなんだけどつい使っちゃってると思うんだよね。それをここで河野さんは袋小路に一番関連する人たちのなかでまずは考えていくっていう。そうすると集まる人使う人っていうのはリアルに想像できて、そこから広がっていくっていうことが、可能性があるんだなぁっていう、本当に無目的っていう無責任に誰でもって言ってないあたりが非常に今後もこういった場所の再生のあり方として良い一歩になるのかなぁ、手段の1つになるのかなぁって一番評価しました。

藤原 ありがとうございます。菅野先生どうぞ。

菅野 私はたくさんいいところがある作品だなぁと思いました。まず、前例として、卒業設計に取り組むに値する、なんていうかこの街の大きな問題に取り組んでいるということと、どこにでもあるすごく凡庸でたくさんの住宅が建っている住宅街。これからどうするんだろうという問題に対して取り組んでいるのがよかったのですが、それに加えて一票入れた理由として、つくった建物の形とそれがおかれた場所の選び方がよかったと思うんですが、つくった建築によって、それが開かれることによって、周りの風景の閉じられていた建物が透き通って見えてくるような、つくったものだけでなく、つくってない風景が変わってきて見えるような気がしたんですよね。それってすごいなぁと思って、それは私の気のせいかもいしれないけど、おそらくきちんとその場所をリサーチして、適切な場所に適切な形をつくったことによる、周りの閉じられた凡庸に見えていた風景がちょっと開放的に見えて、そこを訪れた人にその家々に対して愛着を持たせるような建物じゃないかと思って入れました。

藤原 ありがとうございます。次、野原先生お願いします。

野原 まずあの…タイトルにキュンとしまして。「いつまでもこの街は私の実家」これはご時世ではあると思うんですけど、自分の地域を見直しながら、そこから何かを見出そうとしているこのタイトルに強く惹かれたということと、今年度都市科学部1期生だと思うんですけど、私フィールドワーク論っていう授業やっていまして、覚えているかわからないんですけど、コンテクストの読み方がみんなすごく上手になってきていると思うんですけど、一方でそれを次の設計に生かしていくというのがもう一段難しいというか、大変な中で、河野さんは袋小路とあのポイントの場所っていうのが自分の提案としてうまくコンテクストを導き出して、しかもそういう住宅地で導き出すのは難しいと思うんですけど、ちゃんと見た上で提案しているのがいいなぁと思いました。発表ではリノベの方がよかったんじゃないかとかあったと思うんですけど、それは多分空き家になる前に独居になる家とかたくさんあって、そういう家と噛み合わせながらやっていく提案になったら本当にこういう街で挿入できる提案になるかなと思います。まだまだできることはあるなと思ったんですけど、非常に魅力的な提案ではないかなと思いました。

藤原 ありがとうございます。次、尹先生お願いします。

 はい、そうですね。私もあの…袋小路、袋小路と強調していて、袋小路の問題として奥側の空き家とかを活用するのかなと思ったんですけど、そうではなくて街の主要な道路から袋小路の入り口に設計したというのが、ただの問題を解決するよりも、それを踏まえてその次の街を考えているのが評価できるなと思いました。それがその地域のコミュニティにも触れていたと思うんですが、ある種の地域の単位というか居住単位というか、何らかの単位というものを示すような建築を提案していたので、身近な地域だから見えてきたことがあると思うんですけど、ちゃんとその地域、郊外住宅というものが人口減少の問題として問題化していて、いろんな研究をなさっていると思うんですけど、それをふまえて郊外住宅地が魅力あるものとして示してくれたのが評価しました。以上です。

藤原 ありがとうございます。松本先生お願いします。

松本 さっきフライングで言ってしまったんですけど。大抵の人は、実家には愛着を持っているんですけど、街に愛着を持っているとは限らない。何の違いがあるのだろう。そこに思いを巡らせてくれた提案なのではないじゃないかと思いました。

藤原 ありがとうございます。富永さんお願いします。

富永 つくっている人が強く信じている。これがいいんだって強く信じて、信念を持ってやっている感じがある。レジュメを見ると素晴らしいレジュメなんだよね。話もうまいし、確信に満ちている。形は控えめなところもあるかもしれないけれど、すごく明るい提案で、多分すぐこうなると思いますよ。福祉の住宅とか、そういうものは空き家を利用してコミュニティの場にするとか、そういうふうになってく、すごく信念を持った明るい提案なんで、まだこれ伸び代もあるし、いいなぁと思いました。

藤原 ありがとうございます。寺田さん、お願いします。

寺田 みなさんがおっしゃっていること、納得することで、付け加えるなら、河野さん自身が更新のリズムっていうものを見ながら袋小路に着目し、自分自身の問題として先まで考えているっていうところが素晴らしかったのと、やはりリアリティーがある。もう少し提案そのものは、やりようはあるんじゃないかなとは思うんですけど、自分の思いから発してそれが形になって、街自体もリズムがあるようなことで可能性があるんじゃないかなと思います。あとは、住民が管理して共有物として使っていくとか、何かルール的なことも考えているというのも評価の対象でした。

藤原 ありがとうございます。乾さんお願いします。

 河野さんのやつは、こうした問題は少しずつしか進まないことだったり、時間の問題を考えないと成り立たないという、すごいリアルなことに対して答えようとしていたり、あるいはその塀とか非常に些細なものが風景場所を決定づけていることをリアリティを持ってやっていたり、なんかこう、かなりリアリティをもってあの場所を変えていくにはどうすればいいか結構真剣に考えている。だからといって、すごく真面目な提案なんだけど、リアリティを追求していくことが結構ポエティックになっていく、詩的な解決に至っていくような、なんかすごいこう、なんでしょうね、単にまちづくりの手法論としてうまいっていう問題もあるんだけど、同時に明るい、ただ明るいだけでなく希望を感じたりとか、詩的な風景になっていくんじゃないかっていう期待感があって、まちづくりを建築的に考えていく上で、可能性をすごく感じてしまったっていう提案でした。

もちろん一個の作品は荒っぽいところもあるんだけど、もっと詰めてほしいなという気持ちもあるんだけど、なんかスケールがよかったのか、場所がよかったのか、何がうまくいっているのか私はまだうまく解釈できてないんですけど、なんかすごくうまくいっているなっていうようなことで一票入れました。

藤原 私も入れているので、簡単にいうと、僕はなんか一番あったかくていいなっていう。今年はやっぱり自分の居場所みたいなことを問い続けた一年だったと思うんですけど、そのときにみんなが自分の街を良くしたいと思うんだけど、そういうときにどういう言い方やどういう戦略があるのかって戦略的に考えるんだけど、河野さんはそうじゃくて、実家って言う。街を実家って考えるっていう瓢簞から駒っていうかそういう言い方あったかっていう、僕も何回か引っ越したことあるのでわかるんですけど、引っ越しちゃうと自分の街じゃなくなっていくっていうか、戻る場所がないっていう感じが日本の都市の弱点っていうか、みんなが長いこと住まないので、帰る人がいない、帰る場所がないっていう、そういうことなのかなってすごく端的に日本の都市の問題点を誰もがわかる形でメッセージに込めたっていうのは素晴らしい能力だなって思って。プロジェクトとして、建築計画としては色々問題っていうか、建築計画になってないという意味では卒業設計として推せるかどうかわかんないんですけど、メッセージとしてはすごくいいぞっていうのは思ったということで票を入れました。

以上ですね。全員のコメントいただきました。ありがとうございました。時間なので、吉原賞を決めたいと思います。

 

全文はこちら→YNU Diploma 2020 吉原賞選考会


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